neuf ページ11
*side zero
トントントン、と階段を降りる音が響く。
探偵事務所のお客様が帰るらしい。
先ほどの賑やかな声を聞いた身としては、今回の依頼が気になるところ。
一体どんな依頼人だったんだろうかと、窓の外を眺めていたけれど
結局その依頼人はポアロの前を通ることはなかった。
そのかわり、小さなお客様がカランコロンとベルを鳴らす。
「いらっしゃいコナンくん」
その声を聞いて顔を上げた梓さんに、彼は小さく首を振ると、
「今日は安室さんに相談があって」
と僕の方へ歩いてきた。
「安室さん、今日はもう上がっちゃってください。
きっと今日の依頼のことですよね。
ぱぱっと解決してみせてくださいね、名探偵さん」
梓さんの言葉に甘えて、エプロンの紐をしゅるりとほどく。
「ここじゃなんだから、どこか行こうか、名探偵くん。」
.
.
.
「安室さんさ、安室Aさんって知ってる?女優の」
車を走らせて、適当なところで止める。
いよいよ本題というところで、出たのは今日二度目の名前。
「ええ。少しだけなら」
モップの手が止まるようなミスはもうしない。
悟られないよう、バレないよう。
彼女と僕は、知らない人。
「単刀直入に聞いちゃうけど.....知り合い?」
「はは、まさか。全く知りませんよ。
昨日ドラマで見ただけです。」
頭で練った言葉は詰まることなく口から出た。
彼のまっすぐだった視線が宙を漂う。なにも言ってこないあたり、うまくごまかせたんだと思う。
「今日きたんだ。そのAさんが。
安室さんを探してた」
「僕を?まさか。知り合いでもないのに?」
探していた?本当に?まだ僕を?
もう目が合わせられなくなった。
きっと、口を開けば僕は彼女のことを何度もコナンくんに聞いてしまうに違いない。
苦しんだ5年間が無駄になる。
それだけは、
それだけは。
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作者名:睡眠ちやん | 作成日時:2018年9月13日 22時