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『…樹音、』
「ごめん、遅れた。
……で、どこ行こうとしてたの?」
『どこって……、Aのとこだけど』
「あの子ね」
と相変わらず俺の腕を掴みながら言ってくる。
これじゃ、Aのところに行けないじゃないか。
『…離せよ、……Aが取られそうなんだよ…!』
「へぇ。でももう、遅いっぽいけど」
『…は?』
そう言って、樹音の視線の先にある光景を見た。
そこには、舜斗がAの元へ行き、そのまま一緒に2人で帰っていく姿があった。
焦りが止まらない。
Aが、取られる。
俺のAが、俺以外の男に染められる。
そんなの、ダメだ。
俺はAのところに向かって走ろうとした。
が、樹音の手が邪魔だ。
『…っ、離せって!!』
「今からあっち行く気?」
『あまり前だろ!!あれでA取られたらどうすんだよ!!』
「取られないよ」
『…は?……何を根拠に……』
「壮大が取り返せばいいんでしょ?」
取り返す?
それって、取られる前提の話じゃないか。
『なんで取られる前提なんだよ……』
「そんなのまだわからないよ。
取られる前に、取る。ただそれだけ」
『……』
そうだ。
まだAが取られたかなんてわからないんだ。
舜斗にAが取られる前に、俺が取ってしまえばいい話。
『…わかった』
俺は2人で帰っていく舜斗とAを睨みつけた。
「それに、俺との約束もあるしね。また破られたら困るから」
『……わーってるよ…』
そしていつも通り樹音と一緒に帰った。
2人の後を着いて行くようにして。
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作者名:鯖の味噌煮ちゃん | 作成日時:2024年3月3日 22時