声ー9 ページ48
ナワーブはシャベルを地面に突き刺す。
ザク、ザク。
地面に埋められた死体が腐敗するにつれ、土の中に大量の化学物質が溢れかえる。それは草のような植物にとっては窒素過多になり、死体が埋まっている周りの草は死ぬ、と何かの本で書いてあった。
それが何の本だったのかはよく覚えていない。
化学本だったか、推理小説だったか。
ザク、ザク。
ただただ地面を掘り進めて、1メートルには到達しただろうか。
カツン。
シャベルの先端が何か固いものに当たる感触が腕に伝わった。石ではない、かと言って木の根とも言いづらい感触。冷や汗が背中を流れる。
慎重に土を掘っていくと、白いモノが顔を出した。
骨だ。
まだ血肉は辛うじて付着していて、白骨化には至っていない。けれど、人の形とも言えない姿。
まさに、夢の中で見た亡骸が冷たい土の中に埋められていた。
掘り出した亡骸の手首と足首はボロボロになった縄で縛られていて、よく見ると後頭部の骨が少し凹んでいる。あの走馬灯の最後、鉄パイプを振り上げた人影の映像が脳内を過ぎった。
死者の弔い方などよく知らないナワーブは、ただ亡骸に手を合わせて冥福を祈ることしか出来ない。
目を閉じていると、不意に何かの気配を感じて目を開けた。亡骸の前に、女が立っている。恐らく、目の前にいるのはDだろう。あのおぞましい姿ではなく、張り紙にあった写真の、生前の美しい姿だった。
Dは掘り出された自分の死体を見て悲しそうな顔をしていたが、すぐにナワーブに視線を移して微笑みを浮かべる。
「私の魂はこの場所に縛られて、自由に動くことが出来なかったの。だから成仏も出来なかった……あなたに気づいてもらえて良かった。見つけてくれてありがとう」
「いや……」
か細い声で感謝を述べられ、ナワーブは首を振る。
結局連絡を寄越さなかったBのことを聞こうかと口を開く前に、Dが口を開いた。
「こ れ で あ の 男 を 殺 し に 行 け る。 本 当 に あ り が と う」
え。
呆然とするナワーブの前で、Dはニコリと笑うとその姿を消した。
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作者名:モノクロ饅頭 | 作成日時:2023年11月4日 20時