勘弁してくれ ページ11
重い足取りで門をくぐる。
正直、今すぐにでも帰りたかったが今日は講義が午前中のみだ。
それに、この前休んでしまったばかり故に、出席率を気にしたという理由もある。
あの怨霊の姿が頭をチラつき、忘れようと頭を左右に振った時だった。
「おっと！」
「うわっ」
ドン、と誰かにぶつかってしまった。
謝ろうと慌ててぶつかった人物の方向に振り向いたナワーブは、そのままカチンと石のように固まる。
「すまないね、大丈夫かい？」
「あ、あ、いや、大丈夫。あの、悪いな、ぶつかっちまって……」
「良いよ良いよ。それじゃ」
ぶつかったのは、ナワーブと同じクラスの男だった。
関わりはないが、大学内ではイケメンだと女子から騒がれている。
人好きそうな笑みを浮かべてさっさと歩き出した男の背を見送ることもせず、ナワーブは男とは違う方向から教室へと向かった。
教室内の中央の片隅の席は、ナワーブのお気に入りだ。教師の視界に入りにくく、居眠りをしてもバレない。
講義の準備をしている際、朝ぶつかった男がよく一緒にいる女と教室へ入ってきた。噂では、あの二人は付き合ってるだとか何とか。
しかしナワーブにとって、そんなことはどうでもいい。
気になるのは、あの男の�倏惴�"。
(女、だよなぁ……)
笑い合う男と女の背後に、金髪の女が立っていた。
肩までの長さの髪はボサボサで、伸びきった前髪の隙間から覗く瞳は、氷のように冷たく鋭い。
その女は無表情で男を、時には女を睨みつけていた。あからさまにあの男女と何かがあったに違いない。
「…………っ」
不意に逸らされた金髪の女と目が合ってしまい、慌てて手元のスマホへと視線を移した。
カタカタと震える手はろくな操作もできない。それでもナワーブは顔をあげられなかった。
見られている気配がするからだ。
じっと、ねっとりと、背筋が悪寒で震えるような視線が。
「勘弁してくれ……」
腕っ節には自信があるが、心霊なんてものは専門外だ。寧ろナワーブは苦手だった。
やっぱり大人しく帰っておけば良かった、と酷く後悔をし、重いため息を吐く。
講義が始まることを知らせるチャイムが、大学に鳴り響いた。
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作者名：モノクロ饅頭 | 作成日時：2023年11月4日 20時
