また、二人で紡いで歩めたら (ページ8)

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続き、その5 ページ8

まず向かったのは図書館、『文学:日本文学』のコーナー。
彼女から触れられて、初めて彼女への想いを自覚した場所。
…居ない。
外国文学、児童文学、あらゆるコーナーを回ったが、ついぞ彼女は見つからなかった。

次に向かったのは、Aのケーキ店。
『avenir』の文字が筆記体で刻まれたあの洒落た看板は、もう店に仕舞われていた。
一縷の望みを懸け、ドアを3度ノックする。
「ごめんなさいね、わざわざ来てくださったのに。今日はもうおしまいで…って、あら」
私を出迎えたのは、Aの叔母上であろう、緩く笑みをたたえる女性だった。
「Aなら、まだ戻ってないわよ。あの子と何かあったの？」
「それは…」
言い淀む。
自分のせいで彼女を追い詰めてしまったなど。
「…何かあったのね。急いでるだろうけど、まずは上がって。お話、聞かせて貰える？」

「…そう。そんな事があったのね。これ、今日余っちゃったのだけど…良かったら食べて」
ことりと目の前に置かれた皿に、小さなフルーツタルトが収まっている。
色とりどりの果物達が互いを引き立て合って輝く様に、クジゴジ堂を思い出した。
彼女の笑顔と較べると、ほんの少し、輝きは劣ってしまうけれど、それでも。
「このタルトね、Aが提案したの。近くの時計屋さん、友達がいて、大好きな人もいて、ここみたいに安心できる場所なんだって。だから、そんなイメージで作って欲しいって。私、初めてあの子に我儘言われちゃった」
叔母上の言葉を聞き、ようやくそれが腑に落ちた。
「…私は、」
「愛されてるのね、貴方」
言葉を遮られ、慈しむような瞳─彼女と似通った柔らかさ─で見つめられる。
Aの瞳は、そう、目の前の彼女から譲り受けたものだったのか。
再びAの前に立った時、彼女はまた、あの瞳で私を……見て、くれるだろうか。

…と、ふと叔母上が口を開く。
「ウォズさん、って言ったかしら。貴方、案外可愛い人なのね。Aが貴方に恋したのも納得だわ」
少々受け入れ難い単語が飛ぶが、気にしない事にした。
「もう一度、ちゃんと話してらっしゃい。そこの階段上がって一番奥よ。知ってるかもしれないけど」
行っておいで、と背中を押された。