【ツイステ】君に紡ぐ夢想曲【男主】 (ページ9)

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チェーノ･ラルフィアはツイステッドワンダーランドで屈指の知名度を誇る音楽家である。ただし、彼の音楽は世界的に見ても規格外且つ異質を極めていた。

それは頓痴気な演奏だとか、子ども地味た適当な旋律が一周まわって若者にウケているだとかの風刺的な意味合いではない。寧ろその逆である。彼にしか表現し得ない芸当を小細工も無しに実力のみでやり仰せる才能を讃えたが故の形容なのだ。

魔法という概念が当たり前のように存在するこの世界では、名だたる音楽家は皆、命を削るが如く魔力を消費し、盛大に魔法を駆使することで自身の作品をより華やげてきた。

曲を書く時点で楽譜に精神的な癒しの効果を組み込んでみたり、オーケストラの規模を自動で拡大させたり、演出や音響を大幅に目立たせるなど、工夫は様々である。そういった施しもまた、プロの音楽家として評価される要素の1つであった。

そのため公の場で大衆に対して魔法を使うという権利を悪用し、犯罪に該当する行為が横行しないように、彼らには一業界を1人で背負う程の覚悟が問われ、様々な分野の重鎮からの多大な信頼が求められる。

つまりは大きな舞台に立って演奏するまでにはとても高い壁があり、幾年もの実績を積上げてようやっと活躍できるようになるのである。この世界における音楽家とはこのようなとても狭き門で、実際にプロと認められた音楽家の母数はいつの時代も極僅かだった。

その門の中にいながら、チェーノという例外は音楽界のトップに立ち続ける天才なのである。

彼が特別と言われる所以は、舞台の上でひとり楽器を携えて(種類問わず大体は弾くことができるので、時と場合によって使い分ける)ただ丁寧に音を紡ぐことにある。

それは何の魔法も、エキストラも無いひとりのせかいで、たったひとつの音色だけが支配する時間。普段なら奏者と共に盛り上がるはずの聴衆が歓声を忘れ、息を呑む動作さえ惜しみ、ある種の幻に浸るようなゆめの一瞬。

チェーノの作品は人の心にどうしようもなく寄り添う。

善悪問わず誰しもが持ち合わせているやさしさの全てを引き出すような。それでいて行き場の無い哀しさを静かに掬い取り、怒りにも似た虚しささえをもふわりと受け容れてくれるような力があった。

それが魔法によるものでなく本人の才能で成り立っているというのだから、人は皆彼の演奏に魅了され、遂には神秘をも見出した。そうして膨れ上がった需要にチェーノが応じた結果がこの現状だ。

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