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「そういえば、結局チェーノ先輩のユニーク魔法って何だったんすか？」
そのエースの発言に、アズールはわざとらしく手のひらをぽんと叩き、閃いたような動作をしながら頷いた。如何にも「今思い出しました！」と言いたげな大袈裟な態度に、本当に言及するつもりだったのかと不信感が募る。
「君たちはまだご存知ではありませんでしたね。その件に関しては、ご本人の代わりに僕から説明させていただきます」
騒動が一段落した後、アズールのオーバーブロットに関わった監督生たちは、彼や双子の招待を受けて改めてアトランティカ博物館までやって来ていた。あの時は最早観光どころではなかったので、純粋に景色や展示物を楽しむ機会を得られたことは喜ばしい(しかも現地の人魚たちのツアーガイド付きである)。
海ならではの文化を楽しんだり、監督生はアズールが拝借した写真を元の位置に戻すのを見届けたりと、各々が有意義な時間を過ごしていた中での冒頭の台詞である。
「チェーノさんはここのところ仕事でお忙しいようなので。もし聞かれたら教えてあげてほしいと頼まれていたんです」
それはアズールがまだ自室で大事をとって休養していた時の話だ。
会って話せる状態なのかを丁重に確認した上で、チェーノはアズールの部屋までやって来た。主にモストロ･ラウンジの業務のことで此方が頼むことはあれど、彼の方から訪ねてくるのは相当に珍しい。
対面で話せるよう椅子に座ってもらい、早速要件を問う。『アズールくんが元気になったらでいいんだけれど、』と前置きを入れて、本当に何ともないような声のトーンで言い放った。
『ぼくともう一度契約してほしいって、お願いしにきたんだ』
驚きのあまり目を見開いた。
全ての契約書が消え、預かっていた担保を失い、強い能力の数々を無くしたアズールを見限る者たちは決して少なくなかった。これは自分の招いた失態なので、そのこと自体に不満はない。何ならアズールだってその立場になれば、容赦無く相手を切り捨てる選択をしていただろう。
それ程までに今の彼の信用は地に落ちたと表現しても良い。だからこそこれからどのように挽回していくべきか、利用者を再び増やしていけばよいか必死になって策を練っていた所での、これだ。
「…お願いされた側の僕が言うのも何ですが、正気ですか？貴方」
『ふふ、もちろん』
そんな現状を踏まえた上で尚、目の前の男は再びアズールへ慈悲を乞うというのだ。
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作者名：YAS | 作成日時：2022年9月30日 17時
