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圧倒的なオーラを持つ者は立っているだけでも存在感を放ち様になると言うが、チェーノに関してはその文言がきちんと当て嵌るのか疑問に思われることがある。
例えば彼を呼びに行こうとしたら、実は気付かぬ内にすれ違っていて通り過ぎてしまったり。反対に、何かの集まりがあった時、一同が解散するタイミングにはもう既にそっと居なくなっていたり。
"いつの間にか”で現れたりも消えたりもするチェーノは、大層不思議がられた。特に弱肉強食の理の中で育ち、野生の本能を研ぎ澄ませた人魚という種族が数多く所属するオクタヴィネルではその傾向が顕著に窺える。
ただし、奇妙に感じることはあれど彼等の殆どはそれ以上に尊敬の念をチェーノに抱いていた。美しい歌声や綺麗な音楽を何より重宝する人魚にとって、天才音楽家である彼は神に等しい存在なのだ。
「あ、チェーノさん！お疲れ様です」
したがって寮内を移動中に突然チェーノと出会したとしても、驚きの反応を可能な限り抑えて自発的に挨拶をする。1人の声掛けでその存在にようやく気が付いた寮生たちも次々に会釈をし、彼はそれらに対して一つ一つ『こんにちは』『おつかれさま』と答えた。
そんなチェーノが目指していたのは、オクタヴィネル寮の
アズール･ジェイド･フロイドとはひとつ歳違いの先輩後輩で、尚且つ切っても切れない縁があった。実は3人がチェーノの
暫くすると見えてきた他の部屋とは段違いに上質で厳重なそれを前にゆっくりとノックをすれば、すぐさま「どうぞ」という声が返ってきた。
『こんばんは。みんな、お仕事おつかれさま』
「ネムリブカくんだぁ！やっほ〜」
「どうもこんばんは」
すぐさま声をかけたのは(ソファに有り得ない姿勢で寛いでいる)フロイドだ。今は比較的上機嫌らしいことが声のトーンで分かる。一方でジェイドは恭しくお辞儀をした後、チェーノに紅茶を淹れるためか直ぐにその場を離れた。
「チェーノさん。お呼び立てしたところすみませんが、もう少しお待ち頂いても？」
『うん、大丈夫だよ』
そしてアズールは何かの書類の山に取り組んでいるようで、絶えず筆を動かしている。訪れた時に作業中だったということはしょっちゅうあるので、双方焦ることも急かすこともなく各々の時を過ごした。
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作者名：YAS | 作成日時：2022年9月30日 17時
