第34話 ページ9
「だって、嫌だよ。好きな人が、自分じゃない人を好きになるって」
Aの言葉に、ふと谷崎は、彼女のことが気になった。Aは一度、谷崎にフラれている。それも、妹のナオミを理由に。
「Aちゃんは――――」
そこまで口に出して、止めた。どんな答えが返ってくるか、怖かった。
Aは、谷崎の次の言葉を待っている。
くぉ「なんでも無い。取り敢えず、お母さんに連絡してみたら?すごく心配されてたから。それから探偵社に戻ろう」
Aは、問いかけることを止めた谷崎を不審げに見つめ返したが、何か尋ねることはしなかった。「そうだね」と答えるだけだった。
谷崎は何もしようとしないAを咎めることなく、社用の携帯を取り出して、電話をかけた。相手はもちろん国木田だった。
Aを見つけたことと、これから社へ戻ると伝えた。すると、迎えの車を出すという。Aの母親が、心配でやって来たらしい。今は、心労からか気分を悪くして、医務室で休んでいると、国木田が言った。Aは、矢張り母親に連絡していなかった。
谷崎は電話を終えると、その旨をAを伝えた。Aは、母親の話題に曖昧に頬笑むだけだった。
国木田が運転する車は、さほど時間をかけずに迎えに来た。後部座席に並んだ二人を、国木田はミラー越しに見つめて、探偵社までの道を進んだ。
*
探偵社に着くと、母親はもう社屋の外に出てきて、Aを待ち構えていた。
「Aちゃん!!よかった無事で。心配したのよ、返信もしてくれないんだもの」
Aに抱き着いて、ぽろぽろと涙を流している。Aは居心地が悪そうに笑っていた。
「……ごめんね、タイミングが見つからなくって。谷崎くんが助けてくれたから、何にもなかったよ」
Aの一言に母親ははっとして、Aを離した。国木田と谷崎に深く頭を下げて、目頭を押さえながら礼を言った。
ひとしきり言葉を交わすとそのまま、国木田が切り出しAと母親を帰した。Aが疲れているだろうから、という名目だったが、それだけではないことは、谷崎にはわかった。案の定、母子を見送ってすぐに、国木田はわざとらしく時計を見て、「そろそろ昼だな」とつぶやいた。
「少し早いが昼飯にするか。谷崎、付き合え」
谷崎は悟った。このお説教からは逃れられない。
「俺の奢りだ」
ただ、「はい」と答えるしかなかった。
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!谷崎くん最推しなので超嬉しいし面白かったです! (2022年2月8日 9時) (レス) @page18 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 雪のさん» りょです!w (2018年11月11日 19時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - 柘榴さん» ありがとうございます。公式から発表されていないことに触れることに抵抗のある方もいらっしゃるので、注意書きをしています。 (2018年11月11日 18時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 夢小説だから過去とかめっちゃ捏造しても問題ない!と私は思う (2018年11月2日 21時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - アカリさん» ありがとうございます。次回作も期待に添えるような作品にできるように頑張ります。 (2018年8月17日 21時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09
作成日時:2018年6月30日 22時