猿芝居 (ページ15)

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パープルは一番の暴れん坊。いっつも人間に逆らって、言い返したり殴り返したりしては、罰を受けていた。飯を抜かれ閉じ込められるパープルに、こっそり自分たちの分の飯を分けてやるのが、三人の日課だった。

グリーンは言わずもがな望津璃染邦のことである。本を読むのが何より好きな、大人しい男だ。
本は彼の世界だった。箱庭で暮らしている彼らはあまりに無知だ。想像力すら働かないくらい、何も知らない。そんな中、本は知りたい全てを教えてくれた。視野を、世界を広げてくれた。だから本が好きだった。本を読むのが、好きだった。

＊

その日、望津璃染邦は衝撃を受けた。
まさに青天の霹靂だ。
＿＿生まれて初めて、本を読むことに不快感を抱いた。これ以上読みたくない、読む価値もないと、嫌悪感に近い何かが掻き立てられた。本を閉じる。何故、不快になったのか。理由は恐らく、たぶん……自分たちイスカリオテが、出てきたからだ。

今まで読んできた本は、人間や動物、架空の生物などが登場人物として話が進んでいて、イスカリオテという存在がわざわざ出てくることはなかった。しかし、今回読んだ本は、しっかりとその存在が描かれていた。

〝イスカリオテは人間を裏切った悪魔の子である。〟

この一文が、一冊の中で何度も念押しするように出てくる。そしてイスカリオテがどれだけ愚かな存在かを、人間がいかに正当な行為を行っているかを訴えるかのように、人間に虐げられるイスカリオテが描写され、そして、最終的には呆気なく命までもが奪われ、人間は讃えられ、笑い、踊り……＿＿。

不快である。本一冊に、勝手に描かれることが。勝手に生かされ、勝手に憎まれ、勝手に殺され。生きてきた全てがこんな〝紙の束〟に詰め込まれる。好き勝手改変されて、都合のいいように仕立てあげられて。不愉快である。

ここから。
いや、正確にはもっと前から芽は出ていたが、花が咲いたのは、きっとこの時である。

望津璃染邦は、登場人物ではなく＿＿＿本を書く側(支配者)でありたいと、思った。