猿芝居 (ページ14)

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+過去／化け狸のプリクエルページ14

【過去】

気づいたら、そこにいた。そこで暮らしていた。人間の言うことを聞いていた。聞かねばならなかった。自分と同じ姿かたちをした生き物が、どうしてか自分に命令し、自分を管理し、抑圧していた。不思議な世界だった。しかし望津璃染邦にとってはそれが普通で、常識で＿＿監獄のようなその箱庭が、全てであった。

人間は、自分たちを憎んでいるようだった。その感情の大きさに差はあれど、大抵の人間は良い感情を抱いていない。目は口ほどに物を言う、とはよく言ったものだが、実際人間の口は目よりも余程雄弁だった。残念ながら。散々罵倒されていた。悪魔、裏切り者、クズ、家畜、能無し、人殺し、お前など、お前らなど……。自分に向けてではなくとも、他のイスカリオテに向けられたものがいつも聞こえていた。

まあ、この頃望津璃染邦は比較的いい子であったからして、直接の罵倒よりもまだ、口ほどに物を言う目に蔑まれる方が多かったのだが。

＊

望津璃染邦は望津璃染邦という名前を持っていたが、それを呼ぶのは己の母親のみだった。人間は自分たちのことを記号で呼んでおり、名前など知ろうともしない。
そして実は、望津璃染邦には、望津璃染邦とも記号とも違う呼び名が別にあった。それが、〝色〟である。彼には俗に言ういつメンが他に三人いて、その集まった四人で特別な呼び名を決めていた。

レッド、ピンク、パープル、グリーン。

丁度鼻血を垂らしていたから、〝レッド〟。
ピンクが好きだと言ったから、〝ピンク〟。
紫痣がいくつもあったから、〝パープル〟。
持っていた本が緑だったから、〝グリーン〟

レッドは四人のリーダーだった。活発で、仲間想いで、素直で。でもずる賢いところがあって、人間の嫌がることを人間にバレないようにやり、それで人間たちが慌てる姿をひっそり見て楽しんでいた。楽しむどころか腹抱えて大笑いしていた。性格が悪い。けれどそれをするのはいつだって仲間が酷いことをされた時だったから、三人ともレッドが好きだった。
ピンクは優しくて純粋な女の子だ。傷ついている者を放ってはおけない。そして少し、惚れっぽい。信じやすい。騙されやすい。本人に自覚はないのが厄介である。この四人の中で唯一人間に好意的なイスカリオテだ。