Her Extra Edition ページ49
大量に転がったチューハイの空き缶、コンビニ弁当やカップ麺のごみ、ぼろぼろの服。それらに群がるハエやゴキブリ。生活水準は最悪だった。
たびたび家に訪れる教育委員会の大人たち。彼らが来ると、棚の奥からきれいな服を引っ張り出して自分は大丈夫だとアピールをする。そうじゃないと、母親と離されるとわかっていた。幼い私には母親と離れるだなんて選択肢無かったのだ。
それでも家に帰るのは嫌だった。冬は寒いし夏は暑い。だから私はみんなより早く学校へ行き、ぎりぎりまで残る。その中で出会ったのが『ハリー・ポッター』だった。その主人公であるハリー・ポッターは劣悪な環境で育った。私と似ていた。客観的に文字で見ると、いかに自分が異常な生活を送っているのかが分かった。魔法が解けたような感覚だった。今まで何も思っていなかったのに、突然空腹も、寒さも、暑さも、痛みもすべて辛く感じた。
アズカバンの囚人を読んだ。再び魔法にかかった気持ちだった。何でもできる気がした。どうしてずっとこんな家に居るんだろう、どうして母親が好きだったんだろう。羽が生えたように身が軽くなった。
そのままの勢いで私は担任の先生の元へ駆け出した。彼女はずっと私が虐待されているのではと心配してくれていた。その心配も、母親と引き離される恐怖で煩わしく思っていたけれど今は違う。中卒で働きたい、と言った私に住み込みで働ける料亭を紹介してくれた。隣の県だった。
それからは夢のような人生だった。先生には家庭があるから一緒に住んだりはできないが、働き始めてからも目をかけてくれた。料亭の方々も優しく厳しく家族同然のように接してくれた。アズカバンまでしか読んでいなかった私は自分の給料で続きを買い、最後まで読んだ。
シリウスが家から解放されたのに幸せを享受した期間はあまりにも短かった。そんなシリウスに救われた私は幸せに人生に幕を閉じた。彼は私の恩人だった。
だから、記憶をそのままに生まれ、魔法が使えることを知り、偶然シリウスと同じ学年で入学した私は彼を救いたいと思った。それが自己満足だってわかっている。私は彼が幸せに生きているのを見たかったのだ。
そんな私の隣で私のおなかに顔を埋め、背を丸くして眠るシリウス。彼には警戒心のかけらもない。平和とは言えない闇の陣営が蔓延るこの世界だとそれは当たり前ではない。彼が、何も気にすることなく穏やかに眠れる世界まであと、もう少し。
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アネモネ(プロフ) - 樑さん» コメントありがとうございます!大変恐縮です!できるだけ高頻度で更新していきますのでこれからもよろしくお願いします! (2023年1月25日 9時) (レス) id: ddc7a24158 (このIDを非表示/違反報告)
樑(プロフ) - こんなにどっぷりハマったのは初めてです!更新楽しみにしています! (2023年1月24日 14時) (レス) @page32 id: 50d680b84b (このIDを非表示/違反報告)
アネモネ(プロフ) - なのこ5546さん» コメントありがとうございます!こちらこそこんな長い話を呼んでくださりありがとうございます!更新頑張りますので、これからもよろしくお願いします (2023年1月23日 21時) (レス) id: ddc7a24158 (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - 他にはない設定でとても面白かったです!!一気に読んじゃいました^^更新は大変だと思いますが頑張って下さい、応援しています! (2023年1月23日 11時) (レス) @page23 id: 2327b9d39c (このIDを非表示/違反報告)
ムスメ3(プロフ) - ありがとうございます (2023年1月20日 18時) (レス) id: fcb0ec653e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アネモネ | 作成日時:2023年1月12日 6時