魚住朝喜の話 ページ4
最初はただの"興味本位"だった。ただあの月皇遥斗が気に入ってる奴が普通科にいると聞いたから気になっただけ。周りの奴らも「成績優秀だが、飛び抜けて魅力的なわけではない。」と、口々に言った。だから、その程度なのだろうと思っていた。
しかし、箱を開けてみればソレは飛んだ怪物だった。美しさも確かだが、そんなことではない。役者として、怪物だったのだ。
それを理解したのは、ある日の放課後、日誌を届けに行った帰り__綾薙学園中等部の職員室から昇降口へ行くには校舎内を遠回りしていくか、中庭を突っ切って行くしかない__偶然にもその"ステージ"を目撃してしまったのだ。
遥斗『ようやく分かった 時に悲しそうな』
それは綾薙学園伝統の卒業公演『shadow&lights』、ランバートとアレクシスの和解の場面だった。月皇遥斗がランバート、遥斗と向かい合っている彼がおそらくアレクシスであり、例の生徒なのだろう。青みがかった白銀の髪はちょうど肩くらいまであり、使い込まれた紅桔梗の組紐でハーフアップにしている。遥斗とほぼ同じ身長の割に細い体躯。前髪で隠れていて一瞬しか見えなかったが左右で違う目の色。単純に「綺麗だ」と魚住は思った。
？？『穏やかな眼差し 寄り添う俺の影』
世界が変わる感覚、とはこのことか。
たったワンフレーズ。
たかが素人中学生の遊び。
しかしそこにいたのは中学生ではなかった。魚住は何度も何度もさまざまな公演を見てきた。でも、こんなアレクシスは見たことがなかった。基礎なんてあってないようなものだった。なのに、彼のアレクシスは、人の心を惹きつける。全てに気づき、ランバートを慈しみ、失いかけた心を取り戻し、穏やかな微笑みを向ける。"生きた"アレクシスがそこに存在した。
彼らが歌い終わるまで、魚住はその場を動けなかった。__本当は、動きたくないと思っていたのかもしれない。彼らが歌い終わった瞬間、我に帰ったように声をかけた。しかも思考する隙もなく、だ。
朝喜「お前は、一体…」
湊「…俺は、ただの"鳳湊"だよ？」
彼との出会いが、魚住の中の価値観を変えた。最初は月皇遥斗を超える事しか考えてなかった。でも湊の目にはそんなことは1ミリも映っていなかった。戦い方は１つじゃない。そう言われたような気がした。
"あの事故"の事を今でも鮮明に思い出す。だがあれは事故ではなかった。湊はチームメイトを守る代償に消息不明となった。
朝喜「どこにいんだよ。バカ湊…」
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作者名：水信 | 作成日時：2019年6月17日 23時
