氷上で煌めく太陽２２

１０３３話【結弦side】《ロステレコム杯2017　男子FS》 ページ5

『First Place.Nathan CHEN！』


自分の首からかけられたのは銀メダル。
フリーではネイサンに勝ったけど、ショートの差を埋められなくてわずかに1位に届かなかった。

またGPシリーズ1戦目で優勝出来なかった……。

まだまだ、自分はヘタクソってことだな。


表彰台では笑顔で選手を讃えたり写真撮影をしてるけど、内心すげー悔しくて仕方ない。
今すぐ練習したいくらい。

そんなことしたら、ブライアンから｢練習のしすぎだ｣って怒られそうだけど。



バンケットでは色んな人から｢Aは大丈夫なの？｣って聞かれた。
メドベージェワは｢Aと一緒に平昌で戦うのを楽しみにしてたのに、その夢が叶わないなんて悲しすぎる｣と嘆いていたし。

ほかにもデニス・テンやナムくん、ペアで表彰台を独占したロシアチーム、アイスダンスのシブタニ兄妹と、すべてのカテゴリの選手がAの怪我を心配していた。


A、みんなから愛されてんな。
なんか嬉しいかも。


でも同時に、ごめんって思う。


みんな、俺たちがまだ付き合ってるって思って話しかけてきてるから。
別れたよ、なんて言えないから、俺はそのことを隠して話してる。

ウソをつくのは心苦しいけど、堂々と俺らのことを公言することはもうしたくないんだ。
1年前の交際宣言で、結果的にAを苦しめることになってしまったし、それを解決する力が俺には無かったから。
同じことは繰り返したくない。


浅はかだったな、と今になって後悔してる。


きっとみんな、俺たちのことを応援してくれる。スケートしてる時みたいに、受け入れてくれるってどこかで期待してたけど。
現実はそんな甘くなかった。


応援してくれる多数の声よりも、心を抉るようなごく少数の攻撃的な声のほうが何倍も影響力があった。


これ以上、お互いに心をすり減らしちゃいけない。
そう思って、二人で決めた｢別れ｣という選択。


これからは、その選択をしたことを隠し通さなきゃいけない。

特に今は、俺にとってもAにとっても大事な時期だから。

余計な波風は立てないに越したことはないんだ。

１０３４話→←１０３２話

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す