１０２３話 ページ43
気持ちが揺らいでしまいそうになる。
お互いのために……って別れたのに、もしかしたらと期待してしまいそう。
別れてから、改めてこんなにこの人のことを好きだったって思い知らされるなんて思わなかった。
でも。
だからこそ。
｢ゆづくん。本当に困る。……私たちは、もう別れたんだよ？彼氏と彼女じゃないんだよ。そんな……付き合ってた時みたいな、私だけに見せてくれた顔で言われたら……正直戸惑う｣
包み隠さず、思ったことを口にした。
隠したってしょうがないし。
この先の関係をややこしくしないために、言う時ははっきり言っておかないといけないんだ。
たとえ胸が痛んでも。
そう決めても、やっぱりこういうことを言うのは勇気がいる。
ギプスをしていない左手は、自然とベッドのシーツを握りしめていた。
それでもこの緊張感に呑まれちゃいけない。
そう思ってゆづくんの目をじっと見つめる。
ちょっと寂しそうな目をするゆづくんが、なんだか弱々しく見えた。
結弦｢そうだよな。……ごめん。なんか、自分の気持ち押し付けてた｣
｢ううん。きっと、時間が経てば色々と平気になってくるよ。私も、ゆづくんも｣
結弦｢ん……。じゃあ、俺そろそろ行くわ｣
スッと立ち上がるゆづくんに、ベッドに横になったまま手を振る。
｢ごめんね、寝たままで｣
結弦｢そんなこと気にしなくていいの(笑)ここ病院だよ？で、Aは入院患者。なにも問題なし｣
治療とリハビリ頑張って、と言い残して、ゆづくんは静かに病室から出ていった。
静かな病室には、ゆづくんが去っていく足音も聞こえてくる。
だんだん小さくなってやがて消えてしまった足音に、喪失感のような感情が押し寄せる。
ついさっき、自分から突き放したくせに。
いなくなった途端に寂しくなるとか、勝手すぎる。
誰もいない、一人ぼっちの病室。
聞こえるのは、点滴を管理する機械音。
｢……っ、｣
急に押し寄せてきた負の感情。
これでもかってくらい泣いたのに、私の目はまだまだ涙が出てくる。
１つも試合に出ないで終わった、私の今シーズン。
オリンピック２連覇の望みも絶たれた。
そのためにしてきた今までの努力も、この怪我で意味がなくなった。
｢なんで……っ｣
一人ぼっちの病室で、声を押し殺して涙を流した。
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作者名：優里奈 | 作成日時：2023年3月26日 23時
