氷上で煌めく太陽１９

９２８話 ページ47

《A Kagami.Japan！》

名前がコールされて、スタートポジションにつく。

これでこの大会の全てが決まると思うと、ものすごい緊張と言いようの無い恐怖感に襲われる。

緊張とか恐怖とか、そんなのスケートをしてる時の私には縁のない感覚だと思ってたのにな。


負の感情に押しつぶされそうになるけど、ここで呑まれちゃいけない。

緊張も恐怖も、自分の心が成長した証だと言い聞かせる。



『スケートで1番になりたい』
『世界で戦える選手になりたい』


そう思いながら今まで頑張ってきたんだもん。

小さい頃のように、いつまでも無邪気にスケートを楽しんでるだけじゃ、1番にはなれない。

辛いこと、逃げ出したくなることがあっても、それを乗り越えたら絶対に自分は成長出来る。


｢よしっ｣

小さく息を吐いて最初のポーズをとる。

世界一をかけた演技が始まった。




勝利をテーマにしたこの曲は、力強くかっこよく、雄大に、だけど繊細で温かくて、全てを包み込む寛容さも表現する。

静と動、強弱、緩急、相対するものをひとつの音楽に乗せて。

強さの象徴として冒頭に取り入れた2本の4回転ジャンプ。

トゥループはランディングまで完璧な流れで、今シーズン1番の出来だったと思う。

サルコウも着氷で少し乱れたけど、回りきったのは確信した。


会場からの大きな歓声が気持ちいい。


ああ、これ……
去年の世界選手権と同じ感覚。


いける。
やれる。


そう自分を信じて演技の後半に入る。

何もかもが理想通りの出来で、演技中なのに込み上げてくるものがあって泣きそうになる。

最後のスピン。
終わる前から拍手と大歓声。

フィニッシュ直後から涙が止まらなくて、でも納得の演技が出来て嬉しくて、泣きたいのか笑いたいのか分からなくなってきた。

鳴り止まない拍手の中、リンクサイドのブライアンのところへ戻ると、｢It's great!｣と抱きしめてくれた。

隣にいたトレーシーも｢Well done! You were so cool!｣と嬉しそうに笑っている。

まだジェーニャの演技が残っているから手放しでは喜べないけど、きっといい結果になると信じてる。

緊張と不安と期待が入り交じる中、キスクラで得点の発表を待った。

９２９話【結弦side】→←９２７話【結弦side】《世界選手権2017　女子FS》

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す