氷上で煌めく太陽１９

９１６話【結弦side】 ページ35

A、相当ピリピリしてるな。

スマホもタブレットも試合が終わるまで一切触んないとか、極端過ぎない?!って思うけど。

まあ……四大陸の時のことがあるから、Aなりに考えた結果なんだろうな。

それにしても……


結弦｢どのタイミングで伝えたらいいんだろ｣


SNSの件と、カナの引退のこと。
あの様子だと、AはまだSNSの件は知らないのかな。

ただでさえ嫌悪感を抱いてる義理のお姉さんが、誇張した事実をネット上に載せてるなんて。
そんなこと知ったら、Aは冷静に試合に入ることは出来ないんじゃないかな。

結弦｢俺だって、親戚があることないことネットで拡散したらショックだし｣


下手すりゃ人間不信になるわ。

はぁ、と息を吐いてベッドに寝そべる。

カナもタイミング悪いよなー。
｢早い方がいいかと思って｣っていう気持ちは分からなくもないけど、世界選手権の前に言わなくても。

心配してくれたんだろうけど、どうせなら世界選手権が終わってからにして欲しかったわ。

ていうか自分の引退くらい自分で伝えろよ。
何でもかんでも俺に振るんじゃねー。


結弦｢あー……俺もAも、もう少し周りが穏やかになってくれたらいいんだけどなー｣


前にもそうトレーシーにボヤいたら、｢それは無理ね。あなたたちが羽生結弦と加賀美Aである限り、周囲が穏やかになることは難しいと思うわ｣と一刀両断されて項垂れたのを思い出した。


結弦｢一生無理じゃん｣


あれこれ望むことは諦めた方がいいのかな。

俺は『羽生結弦』として、Aは『加賀美A』として、ずっとみんなの理想通りの姿でいないといけないのかな。


結弦｢……やめよ。なんか気持ちが沈みそうだわ｣

モヤモヤした気分を振り払うように、パッと勢いをつけて体を起こす。
ひとつ息を吐いて、カバンからイヤホンをひとつ取り出した。


誰かとワイワイ話す気分でもないし、音楽聴いて気分転換しよ。

何聴こっかなーと思いながら曲を選んでいると、コンコンとノックをする音が聞こえた。


誰だろ？
A……は｢疲れたから寝る｣って言ってたから違うか。


刑事｢結弦いる？俺だけど｣


あ、刑事？
ていうか、｢俺だけど｣って言われて刑事だって分かるの、俺くらいだと思うけど(笑)


結弦｢はーい！いま開ける！｣


気の知れた親友の声に少しウキウキしながら、部屋のドアをゆっくりと開けた。

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