0. 邂逅 ページ1
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連日の残業に疲れた身体を引きずる金曜日。
終電を降り、数多の街灯や忙しなく走る車で明るい大通りを少し歩く。
瞬間移動が出来たらどんなに楽だろう、と幾度思ったことか。誰しもが一度は考える願いを例に漏れず私も常々思い浮かべていた。
そんな非現実的な話が頭の中を占めるほど滅入っていた昨日の残業帰りに偶然見つけたのがこの裏路地。何処から湧いたか分からない謎の自信がこの道を行けば家に辿りつくと告げていた。
思えばその時から " あの子 " に導かれていたのかもしれないというのは後の話で、溢れる自信のままに物は試し、と少々の冒険心から足を踏み入れてみたところ、大幅に帰宅時間を短縮できたため、私の脳内案内経路の最短距離は昨日付けでアップデートされることとなった。
瞬間移動は出来ずとも、道のりを距離で進めたら早いのに、と算数の授業中、幼いながらに思い浮かべていたことが現実になったようで昨日の帰りは疲れた身体も心做しか軽かった気がする。
ただ灯りはほぼないに等しく、必ずライトを照らして歩かなければならない危険な道だ。如何にも廃ビルといった建物に囲まれており、暗い割に薄気味悪さは感じないが特段気分の上がる道でもない。
覚束無い足取りで裏路地に入ろうと身体を方向転換させたが、照らすための携帯を取り出そうとポケットに入れた手も進んでいた足も止まった。
ひとつの光がある。
昨日は人気を感じさせないほどの暗がりであったのに。
暖かで眩い光に導かれるままに進み、そして光源である建物に書かれた文字に目を通す。
こんな真夜中に営業中の看板を吊り下げているここは、どうやらアンティークのお店らしい。
日が昇り視界良好な今朝だってこの道を通ったというのに、無機質なコンクリートの壁ばかりのこの通りで一際異彩である煉瓦造りのお店があることに何故気が付かなかったのだろう。
睡眠不足続きで碌に頭も働いていない朝の私に期待したとて無駄か、と心の中で自嘲しつつ店内を少し覗いてみる。
主に人形を扱っているようで所狭しとアンティーク人形が並んでおり、あまり美術品や骨董品の類に学のない私でも高価であることは見て取れた。
「何かお探しですか?」
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作者名:not found | 作成日時:2024年3月15日 2時