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どのくらいそうしていたのであろう。
何かに惹かれるように奪われていた意識が何者かの声によって戻される。
どうやら話しかけてきたのはこの店の従業員のようで、肩幅が広く漢らしいことは分かるが、店内から漏れ出る光と路地の暗さによる猛烈な逆光であまり顔色は伺えない。
「い、いえ。そういう訳では。ただこの時間に明るいのが気になって。」
「ははっ、そうですよね。」
「いつもこんな夜遅くに？」
「んー、気紛れってところかな。人形達の気分が1番だからさ。」
物言いからするに彼が店主のようだが、人形の心が読めるとでも言うのだろうか。優しいお兄さんといった雰囲気の穏やかな語り口で会って数分と経たずしてなぜか安心感を覚えるなんとも不思議な人である。
「立ち止まったのも何かの縁だし、お急ぎじゃなければ中を見るだけでもどうかな。」
気紛れと言っていたくらいだ。この機会を逃せば、次いつ開店しているか分からない。
ご迷惑でなければ、と彼の提案に返すと、久しぶりのお客様だ、と嬉しそうに中に入っていく。
置いていかれぬよう、そっと店内へ足を踏み入れた。
高価であることに違いない商品達に何かあってはならない、と拘り抜かれた装飾の把手を慎重に引き、ゆっくりと扉を閉め振り返ると店主らしき彼は微笑んでいた。
天井から吊り下げられた年代物のような上向きのシャンデリアが店内を柔らかく照らしており、店前で話した時はよく見えなかった彼の顔を鮮明に見せてくれる。
陶磁器のように滑らかな白い肌、切れ長な目、スッと通った鼻筋に緩く弧を描いて閉じられた血色の良い唇。
売り物の人形に引けを取らないほど美形な顔立ちだと思った。
「扉にさえも気を使ってくれるお客様は初めてだよ。優しい人だね、だから選ばれたんだ。」
「…選ばれた？」
「着いてきてごらん。」
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作者名：not found | 作成日時：2024年3月15日 2時
