はなことば -2-【短編集】

ムスカリの失望 ページ22

とろサーモン 久保田かずのぶ


side久保田


久保田「…失望したわ」

「それが死人の前で言うことか」

目の前にいる幽霊…もとい、彼女はかつてNSCの門を共に叩いた同期だ。

名前はAといって、憎まれ口を叩いた仲でもあった。

「しっかし…久保田に私が見えるとはね」

久「俺だって見たくて見てる訳ねぇだろ」

「まぁ…それもそっか」

久「酒って怖いな」

彼女は飲酒運転による事故で旅立った。

それが俺には酷く受け入れられなくて、酒なんて喉を通らなかった。

久「信頼も身内もダチも…。お前も奪って行くんだからな」

「久保田らしくない台詞だねぇ」

久「酒は飲んでねぇよ」

「村田ぁぁぁぁぁぁぁ!」

幽霊の彼女は叫ぶが、村田には見えていないようだ。

つまり、俺がただ1人で喋っているにすぎない。変人じゃねぇか。

「とろサーモンの漫才、空からきっちり見守ってるよ。あと久保田の行動も」

久「見張る必要あんの?」

「アンタが何かやらかすと大変でしょうが!」

久「そうかよ」

「…頑張れよ、久保田」

気がつくと、彼女の姿は消えていた。

スマホに夢中になっていた村田が顔を上げ、「どうした?」と声をかけてきた。

久「…ちょっとな」

「一緒のステージに立つ」って言ったよな。

「独身同盟結んでやるよ」って憎まれ口叩いたよな。

「飲みに行こう」って誘ってくれたよな。

久「…望みなくしちまっただろ」

そう呟く俺の目には、ムスカリの花が寂しく揺れていた。



ムスカリの花言葉「失意」「失望」

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