廿伍 ページ26
Aside
《白蓮が目を覚ますと、白い天井が見えた》
《病室のベッドの真横には血液のパックが下げられ、チューブは白蓮の腕に繋がっている》
《吐血をしたせいか未だに血の味が口内に残り、喉はじんわりと痛む。動かせるのは唯一視線のみ。指先でさえ感覚が確かではない》
『………ろ、』
《絞り出した声で伏黒の名前を呼ぶ》
恵「…A…っ？！」
《微かな声でさえ伏黒は聞き逃すことなく反応を見せた。目元は心做しか擦ったような痕がある》
『け、が…な、い…？』
恵「…ねーよ」
『よか、った…』
恵「─お前…っ」
恵「馬鹿か！！」
『！』
《静かな病室に、伏黒の声が反響した。微かに震える声は、言葉を詰まらせる》
恵「一人で何とか出来ると思ってんのかよ、お前が相手にしてたのは悪神だ、未完成じゃなきゃ死んでたんだぞ！」
恵「お前は、誰かに迷惑掛けたくなかったのかもしんねーけど、それが一番迷惑だろ！」
恵「どれだけ心配したと思ってんだ！」
『……ぁ、…』
《伏黒は本心を語る方ではない。誰かに進んで意見を提示する訳でも、自らを支持する方でもない》
《周囲は前に出ても、大体自分は退いた立場から物事を客観視し、必要最低限の言動をする》
《故にその言動が後悔への道筋となる時もある。自らの思いを口にしなかったことで、過去への未練に繋がる》
《その事を伏黒自身が一番理解していた。姉の津美紀の件も己のせいだと何度責めていたことか》
《もしこれで白蓮に嫌われてもいい、伏黒は思っていた。迷惑を掛けないように行動していたことを迷惑だと言われたのだ、ショックはあるだろう》
《しかし迷惑を掛けている、だけで事を済ませたくは無い。もっと言いたいことはある、伝えなくてはならないことがある》
恵「一人で突っ走って、俺の怪我の心配ばっかで」
恵「俺は、お前が居なくなったら…」
『く、ろ……』
『ごめ、んね』
恵「…っ、ふざ、けんな…」
『ごめん』
恵「…もう無理すんな…一人で解決しようとすんな…」
『うん』
恵「もっと自分大切にしろ」
『うん』
恵「一人じゃねーから、俺もいるから」
『ありがと』
恵「気付けてやれなくてごめん」
『くろ、悪い、ない』
恵「俺が、Aの傍に居ること、忘れんなよ」
『うん、』
恵「…デケェ声出して悪かった…驚いたろ」
『ちょっと、』
『でも』
『黒、気持ち、分かった』
『約束、守るよ』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2020年11月22日 0時
