【d!】虹色の今日を【企画短編】 (ページ9)

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そんな私を「仕事が速い」なんて言って重宝してくれたオスマン先輩は私の中で少しだけ、特別なのかもしれなかった。好きな小説を貸し借りし合ったり生徒会室で密かにコンビニスイーツを食べたり。他の人にはできなかったことを、私がしたんだ。

「A、」
昇降口でぴたりと止まった足。先輩の革靴、あんまり綺麗じゃないな、何もかも綺麗にしてそうなのに、不思議。履き潰す主義かな？

そんなことを思いながら少し後ろで私も足を止める。下ばかり向いているからオスマン先輩がどんな顔してるかなんて声から想像するしかない。

おかしいな、普段のオスマン先輩なら声から表情なんて想像できないのに。この瞬間だけは、

「先輩いま泣きそうな顔、してるでしょ」

「俺がこんなに他人のこと振り回すん、君だけやで？聡明なAならとっくに気付いてると思ってた。俺の気持ち」

あーあ、ほんとに泣きそうな顔してる。どうして？とっくに貴方の特別になっていたと思っていた。否、そんなこと思ってなくて先輩に振り回される日常が当たり前になりすぎていて、特別なんて分からなかった。

「ねえオスマン先輩

大好き、なんだと思います」

＿＿＿＿
ぎょっとした。普段冷静で表情ひとつ変わらん後輩が、突然朗らかに笑って、俺に「大好き」なんて言った。俺も人に対する表情のバリエーションは少ないけれど、この子はもっと少なかった。だからこそ知りたかった。いろんなことを試した。生徒会の仕事もAとのタッグならなんでもスムーズにこなせた。『Aがいて当たり前』がこんなにも『特別』な事やなんて気付くのが遅すぎただろうか。

遠回しに攻め続けた興味本位の攻撃は、真っ直ぐな一本槍で跳ね返され、俺の心に刺さった。
Aがこんなにも勇気ある行動をするなんて思わんかった。

「先輩、わたしのこと好きなんですか？」
なんて素知らぬ顔して聞くところ、最高に空気が読めていなくて大好きや。

「A、君のこと大事にするから、俺と付き合ってください」
向き合って握った手はいつもどおりの感触がした。

〈アクアマリン：沈着、勇敢〉