6話 ページ6
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「…っひめ、さ…ま」
何とも情けなくて、弱々しいものであったが、こぼれ落ちたその言葉は、懐かしい響きがした。
昔の自分と立場は変わったが、彼女への忠誠心は変わらなかった。
軍服が汚れるのも気にせずその場に片膝をつく。
「…よくぞ、ご無事でいらっしゃいました。あの時、姫様を置いて逃げ出したこ」
『ちょ、ちょっと待ってください！』
静止の声に顔を上げると、彼女の琥珀色の瞳は揺れていて戸惑いが見られた。
『あの、失礼ながら私を誰かと間違えていませんか？』
「っな！？…そんなはずは、」
美しい少女から美しい女性へと変化はしたが、目の前の彼女は間違いなく姫だ。
驚きとともに、胸がざわざわとして嫌な予感がした。5年も前のことだ。ただの従者だった俺を忘れていても仕方はない。
昔と変わらない姫のはずなのに、その瞳は輝きを失い何も映していないように思えた。
彼女の瞳に、俺は映れているのだろうか？
「……覚えていないのですか…？」
『？…私たち以前会ったことがあるんですか？』
彼女の純粋な疑問に、頭を鈍器で殴られたかのようだった。
姫の記憶に俺はいない。
今まで自分勝手に姫のことを思い続けていた自分が、恥ずかしく思えてきた。
軽く放心状態でいると、慌てて声をかけてきた。
『あ、あの知り合いの方でしたらごめんなさい。』
『実は私記憶喪失みたいで、5年前に記憶を無くしてからそれ以前のことはほとんど覚えていないんです』
「記憶喪失！？」
衝撃的だったと同時に、少し安堵した自分がいた。忘れていたのは俺のことだけじゃないのだと。
ちょうど5年前ということは、あの戦争がきっかけで記憶を失くしたというところだろうか。
彼女の顔を見ると、不安そうな顔をしていた。
いつ記憶が戻るのかもわからないまま、これからも生きていくのだから当然不安ばかりだろう。
今は一国の姫ではなく、記憶を失くした一人の女性だ。
俺の勝手な理由で彼女を姫と呼び、混乱させるようなことはしてはいけない。
そうと決まれば、一度彼女との関係や思い出をリセットして、彼女が記憶を取り戻すまで寄り添おうではないか。
_そして、5年前の彼女のワガママを叶えてあげなくては。
「…そうか。それでは、自己紹介といこうか。
私はグルッペン・フューラーだ」
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作者名：ころころ x他1人 | 作成日時：2018年3月17日 0時
