この子に父親はいない 【神谷浩史】

幼かった自分 ページ24

｢ごめん、…俺…結婚する…｣


あの発言を聞いた時、私はまだ精神的に幼かった。
私たちは、付き合っていたんじゃなくて…一緒にいただけだったことを、その時知った。









A)……赤ちゃん……。


医師)ご主人とゆっくり話し合ってください。まだおろすことも出来ますから。


A)……いません…主人なんて…私には…。(そうだ、私は1人…)


医師)ではどうしますか？1人で育てるのは大変ですよ？


A)……おろすお金なんてないし、大好きな人との子どもなら、産みます…。


この時、もしおろすなんて話したらかすみはこの世に存在しなかった。

しばらくして、かすみが無事に産まれた。
両親からは、自分が決めたことならやり遂げろ。協力はできる限りすると言われた。
この時私は声優に成り立てで、仕事は少なくてやめようか考えた時期だった。


A)……かわいい…。ママですよー。…パパがいなくてごめんね…。絶対に捨てないから…！！


あの人のことは、忘れようとした。
仕事をどうしても続けたくて、バイトしながらオーディションを受けまくった。その努力がついに実って…


A)やったー！レギュラー声優なれたあ！ママ頑張ったよー！かすみー！


かすみ)まましゅごおい！！ぱちぱちぱち！


A)ありがとうー！！かすみのために頑張って良かった…！！もっともっと頑張らなきゃ！！


かすみ)がんばえ！！まま！！


A)いつも寂しい思いさせてごめんねかすみ… ママ頑張るから、きらいにならないでね？


かすみ)ままのことだいしゅきだからだいじょうぶらよ！！


かすみが喋るようになってから、やっと声優としての仕事がだんだん増えてきた。
幼稚園にまだ入れない歳は、両親に頼んで預かってもらっている。でもそれももうすぐ終わり、かすみも幼稚園に通い始める。それから私もレギュラーのラジオを持つことになって、幼稚園が終わってからまた両親にかすみを預けるように。


A)はあ…。かすみに会いたいよおおお…。


??)かすみって誰ー？猫とか犬ー？


A)ま、まあ…そんな感じですね…！！あはは…


花江)え？羽山さん、動物飼ってるの？うちも猫飼ってるんだ！


A)そうなんですか！！(動物っていうか…人間…なんだけどね…。)


この時の私は、まだ神谷浩史という人間を忘れようとはしていたものの、完全に忘れることは出来ずに…心のどこかで考えていた…でも不思議と、寂しいとは思わなかった。

そりゃどうも。→←見たくなかった

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す