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「今帰ったよ、太宰」
そこに立っていたのはショートカットの女性だった。金の蝶の髪飾りとシンプルな服装が良く似合った、美人だ。
とても医者だとは思えない。

「あの方は与謝野先生と言って……。我が社の専属医師ということになってる」
「文句あるのかい。ところで、彼女は?」
「樋口一葉、元ポートマフィアの一員……。と言うのが正しいのかな?」
男性陣は顔を見合わせた。

「で、そいつがどうかしたのかい?」
「記憶喪失らしいです」
与謝野先生は私の前へ立ちはだかった。

「そう……みたいです」
私は怖じ気付きながら言った。

「外傷はなさそうだね。ショック性か……、もしくは人為的なものか……」
与謝野先生は私の頭を撫で回して傷を確認している様だった。

「ひとまず、私が治療しよう。話はそれからだね」
眼鏡の長身は青ざめた。

「与謝野先生、あまり手荒な真似は……」
「しないよ、女には優しくするつもりさ」
与謝野先生は私の手を引き、ついて来るよう言った。


ついて行くと、そこは医務室だった。病院にあるような道具が至るところに置いてある。

「私の異能力は死にかけじゃないと使えないからね、薬を注射させてもらうよ。
私としては記憶が戻らない事を願うんだけどね」
与謝野先生は私に背を向け注射器を用意していた。

「そこに寝てな。用意が出来たら勝手に打って勝手に治してやるよ」
右手側に見えた汚れのないベッドに寝転び、目を閉じる。カチャカチャと小さな音がする他には、何も聞こえない。

「打つよ。しばらく苦しいだろうがそれは治る。安心しな」
目を閉じるがわかる。
この人は絶対に楽しんでいるということが。
声の調子からして楽しんでいる。
ぐっと固く目を瞑る。
針を刺した痛みが伝わり、徐々に体が熱くなる。息が苦しくなり、眠気が襲う。

「あと五分はその調子だからね。我慢しておくれよ」
片目を開けて見ると、ぼやけた景色の中で与謝野先生はニタァと笑っていた。恐怖に声をあげそうになったが声は出ない。

意識が遠退いて来た。こんな経験を前もしたはずだ。
どこで? 何故?
考える。思い出せそうで思い出せない。


……黒? 誰の背中を見ているのだろう。
赤。血の色。血の池が広がって、黒い背中を見ながら、私は笑って語りかける。


『――――、お疲れ様です』

『あぁ』

『血が……。返り血が頬に』

『……ほっておけ』




「終わったよ」
その言葉で現実に戻された。

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蒔愛(プロフ) - 日常的さん» いえ、文ストの中でも好きなキャラクターです。何かお気に障ることがございましたか?良ければお教えください。 (2018年4月28日 0時) (レス) id: 0e9106e5ea (このIDを非表示/違反報告)
日常的 - 作者さんは樋口が嫌いなんですか? (2018年4月28日 0時) (レス) id: f7c5d2c875 (このIDを非表示/違反報告)
蒔愛(プロフ) - 二葉さん» お読みいただきありがとうございました。感想ありがとうございます。 (2018年1月21日 13時) (レス) id: 0e9106e5ea (このIDを非表示/違反報告)
二葉(プロフ) - 拝読させて頂きました。切なさで一杯になり思わず涙が溢れましたが、4章の後半に差し掛かった頃には切なさとはまた違った涙が溢れるばかりでした。迚も心に残る良い作品でした。 (2018年1月21日 13時) (レス) id: aa4e1ad83a (このIDを非表示/違反報告)
蒔愛(プロフ) - ギオさん» お読みいただきありがとうございました。感想ありがとうございます。 (2018年1月17日 7時) (レス) id: 0e9106e5ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒔愛 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2016年7月22日 22時

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