カドミウムレッドの毒性3

8.約束 ページ8

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先生は拗ねる私を面白そうに見ていたけれど、そろそろ行こうかって立ち上がった。




「ねぇ、先生」
「んー？」
「先生も？」
「え？」
「私に会いたいって……思う？離れている時間も私のこと……考えている時はある？」
「なんだよ急に」
「答えて」
「……」
「先生」
「言葉がないと不安ってことか」
「……だってっ、」




何でこんなこと言っちゃうんだろう。
絶対に重い女だと思われている。
面倒臭い子だなって。
きっと宙さんは、こんなことを言ったりはしなかったはずだ。
私は彼女には敵わない……か。
篠原先生言う通り。
少なくとも、今の私は宙さんの足元にも及ばないだろう。
けれど言い出したら止まらなくて、先生の気持ちを確かめずにはいられなくなる。
そんな自分がたまらなく嫌だった。




「A」
「……」




溜息とともに握られた手は温かくてサラサラしていた。




「会いたくもない女の家にわざわざ来ると思ってんの？」
「……分からない」
「そんな奴いる？」
「いるかも……ここに」
「会いたいよ」




“会いたいよ”



胸がカァっと熱くなる。




「北山先生……」
「ん？」
「あの……」



“絶対に愛してくれないわよ”



そんなことないっ。
篠原先生は私を傷つけたいからあんなことを言ったんだ。
自分が愛されなかったからって……



私は違うもん。




「なに？」




私を覗き込むようにして見てくる先生の眸と視線が繋がり、言葉をぐっと飲み込んだ。




「ごめんね変なことばっかり言って。あのっ、えーと、海に行くの楽しみ」
「俺も」
「先生」
「うん？」
「先生が大好きなの」




湿った夜風が肌をなで、外灯を映す先生の眸が微かに揺れた。
唇に移った視線に、心臓がとくんと切ない音を立てる。
触れた唇に鼻の奥がつんとして、喉の奥から熱いものが込み上げてくる。
何で涙が出るんだろう？
先生の前で泣きたくなんてないのに。



下を向いて涙を拭き顔を上げると、困ったように眉尻を少し下げた先生の顔が目の前にあった。




「うん、知ってる」
「せんせ……」




切なくて、先生の胸にこつんとおでこをくっつけた。
優しく背中を上下する手に安堵して、溜息とともに目を閉じる。




「日曜日、北鎌倉行こっか。あじさい寺行って、それから海に行ってさ。街歩きしてなんか旨いもの沢山食おうぜ」
「え……？嬉しい！北鎌倉には行ったことないの」




思わず笑みが零れると、先生も目尻に小さい皺を寄せた。






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