カドミウムレッドの毒性3

6.雨上がり ページ6

・






家に帰ると、裕太くんの部屋から明かりが漏れている。
来月はいよいよ教員採用試験だもの。
きっと今、追い込み中なんだ。
裕太くんはここ何日も夜遅くまで起きているようだった。



お風呂から出て、ベッドにごろんと横になる。
先生は今、何してるのかなぁ……
それに篠原先生のことも気になる。
スマホをじっと見つめ、思い切って名前をタップすると、珍しく先生はすぐ電話に出た。




『はい』
「……先生、今どこにいるの？」
『今？Aんちの前だけど』
「えっ……」
『電話しようと思ったらいきなり鳴ったからびっくりしたわ』
「えっ、本当にっ！？」
『なんちって』
「……っ」




一瞬でも喜んだ自分がバカみたいだ。




『うそうそ、ほんとは、』
「ふざけないで……」
『え？』
「先生のバカ！」
『なに怒ってんだよ』
「期待させないでっ……私の気持ちなんて先生には分からないんだよ」
『ごめんって』
「知らない」
『いや、そんなに怒るから、本当に家の前にいるって言えなくなっちゃったじゃん』




困ったような声。
電話の向こうで苦笑いしている先生の顔が目に浮かぶ。――って、……え？本当なの？




「えっ！？ほ、ほんとにうちの前なの！？」
『だから、そーっすよ』
「まっ、待ってて！今すぐ行くから！」




どうしよう、上下スウェットでなんか会いたくない！
とりあえずジーンズに履き替え、急いで部屋を飛び出した。
転げ落ちるように階段を駆け下りると、外灯の下に立っている北山先生が見えた。




「先生っ」
「よっ」




駆け寄って感情のままに抱きつけば、一瞬躊躇うような仕草を見せたけれどぎゅっと抱き締め返してくれる。
先生の匂いと温もりに、重くどんよりとした気持ちが少しだけ軽くなった。




「私、先生に会いたかった……」
「こんな所でまずいって。すぐそこの公園まで行こうか」
「うん」
「家の人は大丈夫？」
「うん。両親はまだ帰ってなくて、兄は部屋にこもって勉強してるから」
「そっか」




徐に、先生は私の手を取り歩き出した。
しっとり湿ったあったかい手だった。
ゆっくりと、私に歩幅を合わせてくれる。



“玉森さん、宏光と付き合ってるのに彼のこと何も知らないじゃない”

“あなたは、どうあっても宙には適わないってこと”



今日、篠原先生に言われたことが頭から離れない。
気にしなければいいのかもしれない、けれど……






彼女は、北山先生の何を知っているんだろう？







・

7.夜の公園→←5.オイルの匂い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す