5.オイルの匂い ページ5
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「元気です」
「芸大の油画は自由だからね、いい作品作ってね」
「はい」
「玉森さんには芸大油画コースの夜間で、千賀先生の補佐をよろしくお願いしますね」
「玉森さん、一緒に高校生を盛り上げていこうね」
「はい、千賀先生よろしくお願いします」
「じゃあ、今日はどうする?これから千賀先生と教室に入る?」
「あ……はい」
今日は北山先生も予備校に来ているはず。
一緒に帰れたらいいなぁって、そう思った。
千賀先生と階段を上っていると、階段を下りてくる北山先生にばったり会った。
制服を着た女の子2人と一緒だ。
一瞬、目が合う。
「ミツ、玉森さん今日から学生講師のバイトで入ることになったからね」
「よろしく」
「よろしくお願いします……」
素っ気ない会話だった。
いきなり彼女だって紹介してくれるはずもないけれど……なんというか、もっと何か言ってくれてもいいのにと思ってしまう。
振り向けば、生徒と楽しそうに笑っている先生の後ろ姿が目に入る。
バイト、引き受けなければよかったな……
胸がちくんと傷んだ。
教室には、染み付いた油絵具とオイルの匂いが漂っていた。
古くなったオイルを布に染み込ませて、長い間放置して酸化したような匂いというんだろうか?
油画科を志す人はそんなに多くはないけれど、それでも油絵でしか表せないあの質感や色彩、そしてテレピン油の匂い。
私はその独特の匂いが嫌いではなかった。
北山先生のことが気になってはいたけれど、教室に入り、生徒たちに接すると、受験生だったころの感覚が甦ってくる。
キャンバスを見つめる眼差し、講評の時の真剣な表情。
昔は自分もああだったのかな……なんて。 あの頃の自分の姿がふわっと重なる。
私の力なんて微々たるものだけれど、この子たちと向き合い、夢を叶える力になりたいと強く思った。
午後9時。
結局この日は講師たちの打ち合わせがあるということで、バイトの学生講師たちは先に帰ることに。
「お先に失礼します……」
「あ、お疲れ様。また来週ね」
「はい」
講師たちに声をかけて外に出ると、しとしと降っていた雨は上がり、夜空に薄い雲が流れていくのが見える。
結局、北山先生とひと言も話せなかったなぁ……
私は大きな溜息をついた。
でもこういうのって悪くない。
生徒たちとふれあい、過去の自分を見ているような不思議な気持ちになれた。
初心に帰って、明日からまた頑張ろうって思えたんだ。
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siori(プロフ) - ゆうさん» ゆうさん、こんにちは!お待たせしてしまってごめんなさい。心がヒリヒリしながらも楽しんでいただけているのであれば、これほど嬉しいことはありません(T^T)今日、移行しますね!いつもコメントありがとうございます! (2022年9月9日 17時) (レス) id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - こんばんは!更新うれしいです。sioriさんの作品が大好きです。主人公ちゃんの北山先生への想いに涙でした。宙さん今は絵が描けていてよかったです。先生と主人公ちゃんも笑顔になってほしいなと思います。心が痛くなりながらもドキドキしながらいつも楽しみにしてます (2022年8月24日 22時) (レス) @page50 id: d56bd6cb16 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ましろさん» ましろさん、え!?もうひと山ですか(笑)私の話なんて全然大したことなくて(笑)北山くんが凄いからですよー!彼の凄さは私も痛感してます!でも、私はましろさんが帰ってきてくれたことがなによりも嬉しいですっ(涙) (2022年8月18日 20時) (レス) @page16 id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ★mmiioo★さん» ★mmiioo★さん、ありがとうございますっ、大きいんですけどね。相手が強すぎてどうなるかというところです(涙) (2022年8月18日 19時) (レス) @page16 id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - 次の章で終わるなんて言わずにあともうひとやま....笑。久々の現場行きまくりで改めて彼の凄さとかっこよさを痛感し栞さんのお話の凄さも久々に訪れて痛感し新しいお話が読めることが本当に嬉しいです。どのお話も心臓痛くて大大大好きです。愛重く愛しております。 (2022年8月17日 9時) (レス) id: 6b1f0a89b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2021年11月6日 21時