カドミウムレッドの毒性3

37.週末に ページ39

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「じゃあジュエリーとかは？」
『するかな？お母さんがしてるの見たことない』
「裕太くん、そんなじゃ何もあげられないよ」
『だから困ってんの』
「裕太くんから何を貰ってもお母さんは嬉しいのに」
『まあそうなんだけどさー』
「……」
『A』
「……ん？」




『なんかあった？』




少しの沈黙の後ズバッと訊かれ、咄嗟に言葉が出ない。
どこかとらえどころがなくてほわんとしているけれど、実は勘が良くて、私のちょっとした変化、例えば声色なんかでも裕太くんには何でも分かってしまうみたいだ。




「――え？なんで？」
『なんとなく』
「やだぁ、そんなことないけど？」




咄嗟に明るく振舞おうとしたけれど、それは失敗に終わったみたいだった。




『ふーん、そう』
「うん……」
『ほんとに？』
「うん……」
『ほんとかなぁ？』
「……」
『北山先生と何かあったとか？』
「えっ」
『分かりやすっ』
「……」
『まあ、俺には関係ないけどね』
「そうだね……裕太くんには関係ないよね」




そんな突き放すような言い方しなくても……
裕太くんの気持ちを考えたら話を聞いてもらいたいなんて虫が良すぎるのに。
寂しいって思ってしまう私はなんて自分勝手なんだろう。




『なんか声が怖いんだけど』
「……っ、怖くて悪かったね！私、今日は機嫌が悪いの！それに今外だから。もう切るよ！」
『あ、ちょっ、』




裕太くんが何か言いかけたけれど、感情のままに電話を切ってしまった。
ごめんね裕太くん……
瞼の裏に熱いものが溢れ、頬を伝う涙が夜風で冷えて頬がヒリヒリと痛い。
私はスマホをポケットにしまい、ごしごしと頬を擦った。



最悪だよ……
別れるということは、もう先生となんの繋がりもなくなるということだ。
先生と別れてから始まる途方もなく長い日々が、急に現実味を帯びて怖くなる。
もう、未来というキャンバスに何を描けばいいのかまるで分からなくなった。



私はどうしたら……



突然、茫漠とした砂漠の中に、ひとりぼっちで佇んでいるような感覚がした。






* * *






北山先生と別れるのか……
先生への断ちがたい想いに苦しみ喘いで。
そして何の答えも出せないまま１週間が過ぎた。



その週末のことだ。
大学から帰ってくると、リビングから男の人の声とお母さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。



えっ！？この声――！
私は靴を脱ぎ捨て、急いでリビングのドアを開けた。










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