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28.灰色の街 ページ30








人は本当に驚いた時、声が出なくなるということをここで体感するとは思ってもみなかった。



声も思考力も失い、スローモーションで流れていく時間。
私はただ動けなくて、呆然と彼女を見ていた。



サングラスで目は見えなかったけれど、実際に見る宙さんはショートカットが似合うとてもキュートで素敵な女性に見えた。
北山先生の部屋で見た、キラキラと輝く彼女の笑顔が今でも目に焼き付いている。



なぜ目が見えなくなったんだろう?



事故なのか?
病気?
それとも……



彼女を見つめながら、そんなことを考える。






“宙は死んだよ”
“え……?”
“嘘……ですよね?”
“こんなこと、嘘ついてどーすんのよ。ほんと”

“ついでにさ、そんなに知りたいなら教えてやるよ“
“……っ、”
“宙があんなことになったのは、全部俺のせいだってこと。俺が……殺したんだ”






篠原先生の言ったとおりだ。
結局、私は北山先生のことを何ひとつ知らなかった……ということだ。
瞼の中で眼球がぐるりと回ったような感覚がして、ぐらりと床が揺れた。




「おっと大丈夫?顔色が悪いですよ」




咄嗟に身体を支えられ、男の人が心配そうに覗き込んでくる。




「大……丈夫です……」
「奥の部屋にソファがあるので横になりますか?」
「いえ……」
「どうぞ、そうなさって」




ユマさんと呼ばれていた女の人が奥の部屋へと促してくれたけれど、とてもこの場に居られる精神状態ではなかった。
一刻も早くここから立ち去りたかった。




「……私、帰ります」
「え?」
「ごめんなさいっ、本当に、なんでもないですから」
「あの」
「ごめんなさいっ」




頭の中が真っ白になる。
後ずさり、呆然と私を見つめている彼らから逃げるようにして外に出た。



すりガラスに囲まれたような灰色の街。
街を歩く人達はどことなく忙しそうで、夜になるとこの辺りもイルミネーションで輝くんだろう。
湿った外気が首筋に滑り込んでくる。
冷えた汗で身体がぶるっと震えた。



北山先生。
どうして宙さんは死んだなんて言ったの?
亡くなった人を想い続ける気持ちを否定しちゃいけないって、そう思っていたんだよ……?
苦しかったけれど、分かろうと自分に何度も言い聞かせてきたのに。
そんな自分の気持ちを踏みにじられた気にさえなってくる。



私は立ち止まり、コートのポケットからスマホを手に取ると、大きく息を吐き先生の名前をタップした。





29.ポケットのぬくもり→←27.風の色の記憶



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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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siori(プロフ) - ゆうさん» ゆうさん、こんにちは!お待たせしてしまってごめんなさい。心がヒリヒリしながらも楽しんでいただけているのであれば、これほど嬉しいことはありません(T^T)今日、移行しますね!いつもコメントありがとうございます! (2022年9月9日 17時) (レス) id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - こんばんは!更新うれしいです。sioriさんの作品が大好きです。主人公ちゃんの北山先生への想いに涙でした。宙さん今は絵が描けていてよかったです。先生と主人公ちゃんも笑顔になってほしいなと思います。心が痛くなりながらもドキドキしながらいつも楽しみにしてます (2022年8月24日 22時) (レス) @page50 id: d56bd6cb16 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ましろさん» ましろさん、え!?もうひと山ですか(笑)私の話なんて全然大したことなくて(笑)北山くんが凄いからですよー!彼の凄さは私も痛感してます!でも、私はましろさんが帰ってきてくれたことがなによりも嬉しいですっ(涙) (2022年8月18日 20時) (レス) @page16 id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ★mmiioo★さん» ★mmiioo★さん、ありがとうございますっ、大きいんですけどね。相手が強すぎてどうなるかというところです(涙) (2022年8月18日 19時) (レス) @page16 id: 61df7685fa (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - 次の章で終わるなんて言わずにあともうひとやま....笑。久々の現場行きまくりで改めて彼の凄さとかっこよさを痛感し栞さんのお話の凄さも久々に訪れて痛感し新しいお話が読めることが本当に嬉しいです。どのお話も心臓痛くて大大大好きです。愛重く愛しております。 (2022年8月17日 9時) (レス) id: 6b1f0a89b4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2021年11月6日 21時

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