カドミウムレッドの毒性3

25.心の音 ページ27

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「でもさ、そんなうまいこと行くわけないよな」




そう言いふっと笑った先生は、儚くて今にも消えてしまいそうに見えた。



私と付き合っても何も変わらなかったの？
一緒にいるだけで満ち足りた気持ちになったり、優しくなれたり。
先生の心は傷ついたままで、私は何の癒しにもなれなかった？
信頼関係を築くことはできないの？



心が、やり場のない感情に支配されていく。
どす黒い染みが胸の中に広がっていくようだった。




「先生は私じゃダメなんだよ……」
「そういうことじゃないんだって」
「何が？だってそういうことでしょ？もう先生が分からないよ」
「……」
「私には何も言ってくれない。それなのにこんなに１人で苦しんで……連絡もくれない、電話にも出ない、アトリエだって教えてくれない、今もアトリエは死んだ元カノの想い出だらけって……」




そこまで一気に喋り、私は先生を離した。


私はただ先生の心が欲しいだけなのに……
付き合ってから、先生をこんなにも遠く感じたのは初めてのことだった。




「それは……」
「ねぇ先生、青山のレンタルスペース……「凪」には何があるの？」
「レンタルスペース？」
「何で知らないふりするの？」
「ふりなんてしてない」
「私には何も言ってくれないじゃない！」




言い放ち、きっと睨みつけると、先生の眸が微かに揺れる。
そんな少しの表情の変化も、今の私には何か隠し事をしているようにしか思えなかった。
それほど先生の気持ちが信じられなかったんだと思う。




「A、落ち着けって。今日はもう遅いから送ってくよ」
「やだっ、帰らない」
「A……」
「先生の傍から離れたくないっ！もう私とは会わないつもりだったんでしょ！？」
「そんなこと思ってないって」
「やだ！絶対に別れない！」




これじゃまるで聞き分けのない駄々っ子みたいだ。ぶんぶんと首を振りながら抱きつき、回した腕に力を込めた。




「先生、抱いて……」
「こんな所でお前を抱けない」
「どうして！？」
「どうしてもだよ」
「やだ……」




込み上げてくる感情のままに唇を押し付けると、先生は巻き付いていた私の腕をほどいてこちらに向き直った。




「A」
「ここは宙さんと先生の大切な場所だから？」
「そんなことじゃない、」
「代わりだった？」
「え？」
「私は宙さんの代わりだったの？」




私を見つめる驚いたような目。



今、初めて――……
篠原先生の気持ちが分かった気がした。





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