9.陸の人魚 ページ9
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ガイドの木村さんが見つけてくれたロケーションは本当に素晴らしかった。
ロックアイランドに囲まれた浅瀬に横たわる流木が、まるで恐竜の化石のように見える。
翡翠色の海と白い砂。
爽やかな風。
そこで何枚も撮影をして、それからまた釣りを楽しんだ。
ゆったりとした時間が過ぎていき、コロール島に戻ってきた時には、既に空は薄紫に染まっていた。
ボートを降りようとした時だ。
ふと、桟橋に腰掛けている女の子に目が止まる。
綺麗な黒髪と日に焼けた肌。
すらっと伸びた足を揺らしながらじっと海を見つめている。
日本人だろうか?
どこかあどけなさが残る彼女は寂しげで、何故か無性に気になった。
木村さんは彼女に気づくと「ちょっと待ってて下さいね」と言い、彼女のところに歩いていった。
風に乗り、2人の会話が聞こえてくる。
「A、パウルのフィッシングボートにまた乗せてもらっただろっ、お母さんが心配するよ」
「……だって、マリウルが乗せてくれないから」
「バディもいない、誰の言うことも聞かない……そんな子を乗せるわけにいかないんだよ。海は危険なん、」
「お説教?」
「僕は心配してっ、」
「分かってるよ、危険だってことくらい」
「だったら、」
「お願い、お母さんに言わないで!」
「じゃあ、もう今日みたいなことしない?」
「……分かんない」
「Aっ!」
直感で、人魚は彼女だと思った。
あそこまで来られたのは、他のボートに乗せてもらったからか……
彼女は木村さんの腕を振り払い、すくっと立ち上がると、俺の横をすり抜けて足早に歩いていってしまった。
「ごめんなさいね、北山くん。行こうか」
「あの……彼女は?」
「あー、島の子です。ここで育った日本人ですよ」
「もしかして……あの子が例の人魚ですか?」
「そうです……」
やっぱり。
それにしてもあんな女の子がエアもなく、ブルーホールに潜るなんて……
ちょっと信じられなかった。
「いや、俺……びっくりしちゃって。すげー深くまで素潜りしてましたよね?」
「彼女の父親はプロのフリーダイバーだったんです。今も記録保持者ですよ、記録はまだ破られていません」
「だった?」
「1年前に海の事故で行方不明になりました」
「え……」
「でも僕は、事故じゃなかったと思っています」
「まさか……自分から?」
「本当のところは誰も分かりませんけどね……」
木村さんはそう言い、海に視線を移した。
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siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、ありがとうございます!そうなんですよね、特に今回のはどうしても書きたくなってしまって。もうダークな妄想が止まらないです(笑) (2021年6月3日 8時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - こんにちは(^-^)ふと浮かんだり、作品を見たり聞いたり読んだりして話が浮かんでスラスラ書けてしまうこととかありますよね!再開楽しみにしています☆ (2021年6月1日 18時) (レス) id: a0721de2a5 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - はるはるさん» はるはるさん、こんにちは!ほんとですね、コロナで海外旅行どころじゃなくなってしまいましたね。パラオで北山くんと過ごしたいなぁという願望だけしかない話で何も中身がなくて申し訳ないですが、きれいな海をココロに描いて下さったのなら嬉しいです! (2021年5月18日 19時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - sioriさん、更新ありがとうございます。美しい海の情景が、詳しく表現されていて、私もその場にいるようです。未だ海外旅行は、行った事ないんですが、陽射しも暑く感じるほどです。この世界観、本当に有難いです。 (2021年5月16日 15時) (レス) id: 4f8e80d38c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ななこさん» ななこさーん、こちらも読んでくださりありがとうございます!そうですよね、ほんと切ない話ばかりだと自分でも思っています。大好きと言って下さり嬉しいです!まずは北山くんとパラオの海を楽しんでくださいね! (2021年5月9日 20時) (レス) id: faedcbc792 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2021年5月2日 19時