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「おはようございます」
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「はい……大丈夫です」
とは言ったものの、俺はどんな時でも寝られるのが取り柄なはずなのに、例の光景が目に焼き付いて昨日はなかなか寝付けなかった。
編集者の清水さん、前回の西表島でもお世話になった水中カメラマンの石井さんと一緒にビーチを臨むレストランで朝食を済ませ、ボート乗り場に向かう。
そこで今回ガイドをしてくれる日本人スタッフの木村さんと、ボートオペレーターのマリウルを紹介された。
身体の大きなマリウルは親日家で、かなり日本語が話せるようだ。
パラオ人らしく陽気で気さくに話しかけてくれるから、俺たちはすぐに意気投合した。
スタッフはスペシャリストばかりだったから、今日のダイビングには何も不安はないが……
昨日のことがどうしても気になる。
「あの……パラオに人魚伝説なんてないっすよね?」
パラオに移住して長い木村さんに訊いてみると、きょとんとした顔になる。
「ん?人魚ですか?ジュゴン伝説ならありますけど」
「はは、そっすよね」
「パラオにはジュゴンが生息しているんですよ。僕らも滅多に会えません」
ジュゴンか……
どう考えても昨日のはジュゴンではない……
「あっ、だけど」
「はい?」
「人魚みたいな子なら1人知ってますよ」
「はぁ……」
人魚みたいな子って……
どういう意味だろう?
「ははっ、下半身が魚ってわけじゃないですけどね」
「ですよねぇ」
「まあ、会えば分かりますよ」
「そうなんですか……」
俺が困惑していると感じたんだろう。
木村さんはそう言うと、眩しそうに目を細めた。
「じゃあ、出発しますねー。ブルーコーナーまで1時間はかかりますから。
北山さん、これからの時間はちょうど潮の変わり目を迎えるので、大物や大群が見られるかもしれませんよ。昨日はバラクーダの群れがいたって情報入りましたから」
「なんか俺、めっちゃテンション上がってきましたよ」
「今日1日、楽しみましょうね」
「シュッパーツ!」
マリウルの陽気な声が空に響くと、風を切り、ダイビングボートが走り出した。
ダイビング誌の仕事で訪れた楽園。
ここパラオで、運命的な出会いが待っているなんて……
この時の俺は、これっぽっちも思ってなどいなかった。
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siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、ありがとうございます!そうなんですよね、特に今回のはどうしても書きたくなってしまって。もうダークな妄想が止まらないです(笑) (2021年6月3日 8時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - こんにちは(^-^)ふと浮かんだり、作品を見たり聞いたり読んだりして話が浮かんでスラスラ書けてしまうこととかありますよね!再開楽しみにしています☆ (2021年6月1日 18時) (レス) id: a0721de2a5 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - はるはるさん» はるはるさん、こんにちは!ほんとですね、コロナで海外旅行どころじゃなくなってしまいましたね。パラオで北山くんと過ごしたいなぁという願望だけしかない話で何も中身がなくて申し訳ないですが、きれいな海をココロに描いて下さったのなら嬉しいです! (2021年5月18日 19時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - sioriさん、更新ありがとうございます。美しい海の情景が、詳しく表現されていて、私もその場にいるようです。未だ海外旅行は、行った事ないんですが、陽射しも暑く感じるほどです。この世界観、本当に有難いです。 (2021年5月16日 15時) (レス) id: 4f8e80d38c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ななこさん» ななこさーん、こちらも読んでくださりありがとうございます!そうですよね、ほんと切ない話ばかりだと自分でも思っています。大好きと言って下さり嬉しいです!まずは北山くんとパラオの海を楽しんでくださいね! (2021年5月9日 20時) (レス) id: faedcbc792 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2021年5月2日 19時