13.約束 ページ13
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「え?」
「俺、ここには仕事で来てんだけど、後2日で終わるから、そしたら10日の休暇もらってんだ。パラオ案内してくんない?」
「私が?」
「もちろん学校がある間は無理なこと言わないよ。観光客が行かないような場所……行ってみたいんだ」
俺の言葉に、彼女はパチパチと眸を瞬かせた。
彼女のことは木村さんから聞いていたから、大人として放っておけないという思いからなのか?
それとも持ち前の好奇心?
自分でも何故そんなことを言いだしたのかは分からない。
けれど只の好奇心だけではなく、彼女の笑顔を見たいと思っている自分がいた。
「じゃあ……私のお願いも聞いてくれる?」
「もちろん」
「木村さんに言わないで」
「木村さんに?」
「うるさいから」
「Aちゃん、木村さんは君を心配してるだけだよ」
「本当は分かってるの」
「え?」
「木村さんが良い人だってことも、私を想って言ってくれてることも」
「そっか……」
とは言ったものの、木村さんのことを言われると躊躇う。
あんなに彼女を心配している木村さんに内緒でいていいんだろうか?
「それと……」
「うん?」
「私をボートに乗せて欲しいの、北山さんお金あるでしょ?」
「あるっちゃあるけど……」
「私、お金がないから……そのっ……、」
「分かってるよ」
やっぱり遠慮があるんだろう。
言いにくそうにしながら上目遣いに俺を見て、スカートをぎゅっと握った。
「A、やっぱりここにいたのね」
その時、1人の女性が近づいてきて彼女に声をかけた。
そして俺を見て軽く頭を下げる。
「お母さん」
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「ううん」
「あの……娘が何かご迷惑をおかけしました?」
「いえ、俺は……」
「木村さんがガイドしてるお客さん。ここのコテージに泊まってるんだって」
「あっ、もしかして……雑誌の撮影で日本から来た方って」
「あー、それ俺っすね」
「そうでしたか……」
このホテルで働いていれば、俺たちの情報はもう入っているんだろう。
彼女のお母さんは安心した様子で微笑んだ。
「じゃあね、北山さん」
「うん、またな」
「うん……また」
“キィー”
彼女たちが去った後、遊んでもらいたいのかピピの視線を感じる。
「ピピ、遊んでやってもいいぜ?」
すると、ピピは大きくジャンプして大量の水を俺にかけると、月明かりを映し、紫がかった濃い藍が静かにゆらめく夜の海へと消えていった。
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siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、ありがとうございます!そうなんですよね、特に今回のはどうしても書きたくなってしまって。もうダークな妄想が止まらないです(笑) (2021年6月3日 8時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - こんにちは(^-^)ふと浮かんだり、作品を見たり聞いたり読んだりして話が浮かんでスラスラ書けてしまうこととかありますよね!再開楽しみにしています☆ (2021年6月1日 18時) (レス) id: a0721de2a5 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - はるはるさん» はるはるさん、こんにちは!ほんとですね、コロナで海外旅行どころじゃなくなってしまいましたね。パラオで北山くんと過ごしたいなぁという願望だけしかない話で何も中身がなくて申し訳ないですが、きれいな海をココロに描いて下さったのなら嬉しいです! (2021年5月18日 19時) (レス) id: 534cf1e415 (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - sioriさん、更新ありがとうございます。美しい海の情景が、詳しく表現されていて、私もその場にいるようです。未だ海外旅行は、行った事ないんですが、陽射しも暑く感じるほどです。この世界観、本当に有難いです。 (2021年5月16日 15時) (レス) id: 4f8e80d38c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ななこさん» ななこさーん、こちらも読んでくださりありがとうございます!そうですよね、ほんと切ない話ばかりだと自分でも思っています。大好きと言って下さり嬉しいです!まずは北山くんとパラオの海を楽しんでくださいね! (2021年5月9日 20時) (レス) id: faedcbc792 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:siori | 作成日時:2021年5月2日 19時