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涙の音 ki ページ46









「お弁当作って来ました」

「Aちゃん、ありがとう」

「中身は横尾さんの大好物ですよ 」

「あ、ほんと?やったね」

「凪さんも南ちゃんが起きたら来るって
言ってました」

「了解」



風に乗り二人の声が聞こえてくると、頭
の中が真っ白になった。

男が……いるのか……?

ドクンドクンと心臓が大きく鼓動を打ち
始め、肋骨を突き抜け外に出ようと暴れ
出す。

突然消えて、一年もの間連絡もせずにい
たんだ。これも自業自得。考えたら、男
がAをほっとくはずがないじゃん。

馬鹿だな俺……

Aが幸せなら良いだろ。矛盾してる
んだって。

楽しそうな二人を目の当たりにして、俺
はその場から動く事ができなかった。



「ヒラメは上達しました?」

「うん、大分上手くなったよ、問題は俺
が上手に投げられるかってだけ。見てて
ね、ヒラメ!GO!」


男が大きくフリスビーを投げた。


「ヒラメ!上手よっ!Good boy!」


緩くカーブを描くそれをプードルは全速
力で追いかけ、ジャンプしてキャッチす
ると、何を思ったか俺の所に走って来る。






え!?バカっ!来んなって……!



プードルの想定外な行動に、慌てて踵を
返そうとした瞬間、Aと目があった。





――――!




まるで幽霊でも見たかのように、まある
く大きく見開かれる双眸。


波音も、風の音も

空を旋回する鳶の鳴き声も……

俺を取り巻く全ての音が消えた。









再び音が戻った時、俺の胸にはAが
いた。

胸に頰を埋め。背中に回った腕がぎゅっ
と俺の身体を抱きしめてくる。


「……ひろ」

薄いシャツを通して、俺の胸にAの
体温と早い鼓動が伝わった。





「何で……」

「……え?」

「何で……いるの?」



震える声でそう言い、俺を見上げた眸に
は涙の膜が張っている。瞬きと共に、そ
れはぽろりと零れ落ちた。



「何で……って……」


あまりにも突然の事に言葉が詰まって出
て来なかった。

けれど、Aは笑ったんだ。只アホみ
たいに突っ立ったままの俺に向かって。





「ひろ、おかえりなさい」




昔と全然変わらない懐かしい笑顔だった。
俺が守りたかった可愛い笑顔。

でもそれは、徐々に泣き笑いみたいに歪
んで、また俺の胸に顔を埋めて動かなく
なってしまった。細い肩が震えていた。

更に細くなってしまった彼女の姿を見た
ら、途轍もない後悔が俺を襲った。



「ごめん……ごめんな……Aっ……」






拭えない過去と…… ki→←春の海 ki



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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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siori(プロフ) - はーちゃんさん» はーちゃんさぁん、お久しぶりです!途中で更新停止してしまいましたが、どうにかラストをむかえることが出来ました。はーちゃんさんのように待っていて下さった読者さまには本当に頭が上がりません(涙)温かいお言葉とっても嬉しかったです!ありがとうございました! (2020年6月20日 14時) (レス) id: b69aae1f51 (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - 次回作も楽しみに待ってます! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - sioriさん、お久しぶりです!最終回までやっとみれました。最後までお疲れ様でした!簡単に言うと、ハッピーENDで良かった。ゆっくり休んでくださいね。 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ミーさん» ミーさぁん、お久しぶりです!本当に半年以上書いてなかったなんて時の過ぎるのはなんと早いのでしょうね。こんなに書かなかったは始めてなので感覚がちょっと変です(笑)また最近ダイバー読んだりして夏らしい話が書きたいななんて。コメントありがとうございました! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - とーかさん» とーかさん、ありがとう!とーかさんが読んでくれてると思うとド緊張でしたよ!いつもながら(笑)そうなんです、お話の構成考えるのって楽しいけれど、その選択の連続ですよね。私もいつかとーかさんのように伏線を張り巡らせるような話が書けるようになりたいですっ! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2019年5月18日 23時

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