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背中 ページ23









その夜、私達は待合室のソファで仮眠を
とりながら朝を迎え、戸部先生が手配し
てくれた車に乗って横浜に向かった。

ひろも裕太もずっと無言で、裕太はシー
トに寄りかかって目を瞑り、ひろは車窓
から見える景色を、只ぼんやりと見つめ
ていた。



坂道を上って行くうちに、車窓から見え
る海側の視界が開けてくる。見下ろすよ
うに見えるのマンション群の遠く向こう
には住宅街が広がり、その合間からほん
の少しだけ青く光る海が見えた。




* * *




横浜の山手にあるその病院は坂の途中の
静かな住宅街の中にあった。

個人病院だったが規模が大きく、横浜の
開港当時を思わせるような煉瓦造りの外
観が、病院らしからぬ落ち着いた雰囲気
を醸し出している。




「ここ、病院?」

「そうみたい」

「病院に見えないね」


私達は瀟洒な建物を見上げた。


「裕太、大丈夫?」

「うん」


ひろが裕太を支え、私は裕太の胸から繋
がっているチューブとパックを持った。









戸部先生が紹介して下さった院長はとて
も柔和な雰囲気で、メガネから覗く眸は
優しげだった。


「僕もね、若い頃は喧嘩ばっかりやって
いたよ」


その場を和ませるようにそう言い微笑む
と、茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。
そんな先生に裕太も自然と笑顔に。

検査の結果、肺は膨らみ始めてはいるが
完治するにはどうしても外科的手術が必
要だと言われた。幸い骨折も軽傷で、一
週間ほど入院が必要だけれど大事には至
らないとの診断だった。

入院手続きを済ませると、ようやく安心
したのかひろが大きく溜息をついた。





「玉、明日の手術頑張れよ、俺達も来る
から」

「ごめんね、来ないといけないなんてさ
……来なくたって大丈夫なのに」

「強がんなって」




「……ミツ」

「うん?」




「ありがとう」

「ああ」



ひろが笑うと裕太も笑った。それは久し
ぶりに見る、彼特有のふにゃんとした可
愛いらしい笑顔だった。





この日、私達は面会時間が許す限り裕太
の病室で過ごした。

病院を後にした時には既に外は暗く、澄
んだ春の夜空には、静かに浮かぶ白い月
が見えた。


「A」

「うん?」

「今日はこの辺りに泊まるか?」

「うん」




頷き笑いかけると、ひろは目尻に細かい
皺を寄せた。

バス停へと、無言で歩くひろの斜め後ろ
を歩く。




もう後戻りは出来ない……




十字を背負ったその背中が、そう語って
いる気がした。






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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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siori(プロフ) - はーちゃんさん» はーちゃんさぁん、お久しぶりです!途中で更新停止してしまいましたが、どうにかラストをむかえることが出来ました。はーちゃんさんのように待っていて下さった読者さまには本当に頭が上がりません(涙)温かいお言葉とっても嬉しかったです!ありがとうございました! (2020年6月20日 14時) (レス) id: b69aae1f51 (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - 次回作も楽しみに待ってます! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - sioriさん、お久しぶりです!最終回までやっとみれました。最後までお疲れ様でした!簡単に言うと、ハッピーENDで良かった。ゆっくり休んでくださいね。 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ミーさん» ミーさぁん、お久しぶりです!本当に半年以上書いてなかったなんて時の過ぎるのはなんと早いのでしょうね。こんなに書かなかったは始めてなので感覚がちょっと変です(笑)また最近ダイバー読んだりして夏らしい話が書きたいななんて。コメントありがとうございました! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - とーかさん» とーかさん、ありがとう!とーかさんが読んでくれてると思うとド緊張でしたよ!いつもながら(笑)そうなんです、お話の構成考えるのって楽しいけれど、その選択の連続ですよね。私もいつかとーかさんのように伏線を張り巡らせるような話が書けるようになりたいですっ! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2019年5月18日 23時

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