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父の温もり ページ20









「何も……訊かないでください……」

「何も責めているわけじゃない。僕は玲
ちゃんの事が心配なだけだよ」

「分かってます、分かってるのにっ自分
でもどうしていいか……」




泣くつもりなんてなかったけれど、先生
の優しい言葉が私の心に染み込んで、堪
えていた涙が頬を伝い落ちた。

戸部先生は、そんな私を暫く憐れむよう
な眸で見つめていたけれど、大きく溜息
をついて私の傍にやって来た。思わず目
を瞑る。


「玲ちゃんごめん。君が今までどれほど
の苦労をしてきたか、僕には想像する事
しかできないのに……悪かった……もう
あれこれ言うのはやめよう」



私は目を開けると、鼻をすすり上げなが
ら首を横に振る事しか出来なかった。


「いいえ……、いいえ……」

「玲ちゃん」



「先生……」



「僕の旧友が横浜で開業しているから彼
に頼んでみよう。信頼出来る男だから大
丈夫だよ」

「ごめんなさい……」

「君には沢山の楽しい時間を貰ったね。
忘れないよ、今までありがとう」




何故そんな事を言ったのか?

この時、もう先生はこれっきり私に会え
ないと分かっていたのかもしれない。

優しく背中を上下する掌に、忘れていた
父の温もりを思い出していた。





*





廊下に出ると、処置室からひろと裕太の
声が聞こえてきた。

立ち聞きをするつもりなんてなかったけ
れど、二人が大切な話をしているかもし
れない所には何となく入って行きづらく
ドアの前で躊躇ってしまう。私はドア越
しに耳を澄ませた。



『玉ちゃん、おまえ何を盗ったの?』

『児童売春の証拠……』

『やっぱり……俺に見せてくれない?』



ひろの優しい声が聞こえてきた。



『……うん、俺、どうしても黒川さんが
許せなくて。でも結果ヘマしちゃってミ
ツやAさんまで巻き込んじゃった』

『玉、それはもう言うな。玉はすげー男
だと俺は思うよ……』

『ミツ……』

『ん?』

『……ありがと……ねぇ、奴らはどうな
ったの?……まさか……殺したりしてな
いよね?』



裕太の声に不安の色が纏う。




『……してないよ』

『良かった』

『ん』


ひろの優しい笑顔が浮かび、胸がぎゅっ
と苦しくなった。



『黒川さんがウリなんてやらせなければ
こんな事にならなかったんじゃん!俺、
告発して刺し違える覚悟だから……』



裕太……
強い意志を感じる声だった。

私の脳裏に、ヒヨリの位牌に両手を合わ
せる震える背中が浮かんで消えた。







金庫の中→←地の果てまで



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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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siori(プロフ) - はーちゃんさん» はーちゃんさぁん、お久しぶりです!途中で更新停止してしまいましたが、どうにかラストをむかえることが出来ました。はーちゃんさんのように待っていて下さった読者さまには本当に頭が上がりません(涙)温かいお言葉とっても嬉しかったです!ありがとうございました! (2020年6月20日 14時) (レス) id: b69aae1f51 (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - 次回作も楽しみに待ってます! (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん(プロフ) - sioriさん、お久しぶりです!最終回までやっとみれました。最後までお疲れ様でした!簡単に言うと、ハッピーENDで良かった。ゆっくり休んでくださいね。 (2020年6月18日 20時) (レス) id: 68687cd35c (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ミーさん» ミーさぁん、お久しぶりです!本当に半年以上書いてなかったなんて時の過ぎるのはなんと早いのでしょうね。こんなに書かなかったは始めてなので感覚がちょっと変です(笑)また最近ダイバー読んだりして夏らしい話が書きたいななんて。コメントありがとうございました! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - とーかさん» とーかさん、ありがとう!とーかさんが読んでくれてると思うとド緊張でしたよ!いつもながら(笑)そうなんです、お話の構成考えるのって楽しいけれど、その選択の連続ですよね。私もいつかとーかさんのように伏線を張り巡らせるような話が書けるようになりたいですっ! (2020年5月27日 11時) (レス) id: f587e16f89 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2019年5月18日 23時

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