罪で結ぶ絆 4

刹那の夢 ページ46

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そう言いながらパスタを口いっぱいに頬
張ると、目を閉じて満足そうな表情にな
る。


「ねえ、ひろはとっても美味しそうに食
べるんだね」

「だって本当に旨いぜ？」


フォークを持つ手を止めると、目尻に小
さい皺を寄せた。








少しだけ開いた窓から、滑り込んでくる
柔らかい風がカーテンを揺らしている。

早めの昼ご飯の後、子猫は窓際にできた
陽だまりの中で、お腹を上に向けて気持
ち良さそうに眠っていた。



「お腹いっぱいになって寝ちゃった」

「寝相わりぃー」

「ひろそっくり」

「そこ？」


私が笑うと、つられるようにしてひろも
笑った。


「ふふ、そこ！……あ、ありがとう食器
洗ってくれて」

「作ってもらったんだからこんくらいし
ないとね」



そう言うなり、その顔から笑顔が消えた。
そしてシンクから離れ、私の方に近づい
て来る。ひろの指がそっと頬に触れ、思
わず一瞬目を瞑った。


「A」

「うん……」

「ヒヨリの事だけど……」

「……」


まるで真冬の湖底のように、とても静か
な眸だった。ひろが何を言おうとしてる
のか……その表情から手に取るように分
かる。


「もし黒川さんに、復讐しようとか考え
てんなら……」


やっぱり……と、思う。
私の事が心配なんだよね。


「考えてないから」

「え？」

「もう考えてないよ」



ひろは目を見開いた。
正直、黒川さんに対しての憎しみはある。
けれど復讐しようにも、私にはその術が
刺し違える以外にはもう何もないの。

でもそんなことをしたらひろが哀しむ。
もうこれ以上、彼を哀しませたくなかっ
た。

ひろを地獄の底に落とす為に、妹を捨て
た男とは知らずに関係を持った自分が、
心底愚かで……只、許せなかった。






“なぁ、俺が欲しい？”

“……ひろ？どうし、”

“言えよ”

“――……”

“……俺、本当はめっちゃくちゃ嫉妬深
いんだよ”


昨夜の言葉が頭にこびりついている。




「A……」

「ひろ、黒川さんの事……ごめんなさい」

「いいんだ……もう言うな……」


思わずひろに抱きつけば、強い力で抱き
しめ返され「ごめんね……私っ、んっ」
発した言葉はひろの唇に遮られた。



「A……」


切ない声が鼓膜を震わせ、額をくっつけ
見つめ合う。









「ひ……ぁん……」

「はぁっ、綺麗だよ……」



ひろこそ……


淡い日差しが部屋をほんのりと染める中
私の上で苦しげに顔を歪める彼を、とて
も綺麗だと思った。





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