罪で結ぶ絆 4

予感 ki ページ35

・







一体何の為にそんな事が知りたいのか？
鍵を開けておく意味は？

疑問に思ったけれど、当時小学三年生だ
った俺は、まさか人を殺そうとしている
なんて考えもしなかった。




「本当に劣悪な環境の中でっ……あの家
族だけが心の支えだったのに……俺は、
……とんでもないことを……」





“良くやった”




あの日、家に帰るとそう言いながら俺の
頭を撫で、薄く笑った義父の顔が忘れら
れない……



良くやった。
良くやった。
良くやった……



熱い物が頬を伝い、Aの顔が滲んで
見えた。






「ひろ……っ」

「あの日は何となく眠れなくて……深夜
に家を出る義父さんに気づいたんだよ」






ガチャリと玄関が開く音がした。


途轍もなく嫌な予感がして、カーテンを
少し開けて外を見ると、Aの家の方
に歩いて行く義父が見えた。

この時になって、今日鍵を開けてしまっ
た事に後悔を覚えた。

急にとんでもない事をしてしまったんじ
ゃないかと怖くなり、布団の中に潜り込
んだけれど、心臓は飛び出しそうな程に
ドクドクと音を立てていた。




「後を……つけたの……？」

「いや……俺は……怖くて暫く布団の中
にいたと思う。だけど、どうしても気に
なって……行ってみる事にしたんだ」




月明かりと、遠くに見えるAの家の
明かりだけが頼りの夜道を、俺はいつの
間にか走り出していた。

走って、走って、走って……

凍えるほどに冷たい外気を吸い込む度に
肺まで凍りつきそうだった。







家が近づくにつれ、煙のような臭いが漂
って来て、窓から漏れるのは電気の明か
りではなく炎だと分かったんだ。

窓越しにリビングのカーテンが燃えてい
るのが見えた。近寄って中を覗くと、燃
えたカーテンの間からガスマスクのよう
な物を付けた男が、ぐったりとしたA
のお母さんを床に押さえつけている。

“……！”

間違いない……俺の義父さんだっ








おばさん！！！



足が竦んで動かなかった……



あまりの恐怖に身体が震え、喉がヒリつ
き声が出ない。

やっとの思いで後ずさり、地を這うよう
にして玄関に回った。もう必死だった。

玄関ドアを開けようとしたけれど、鍵が
かかっていてそれはビクともしない。

その時、バリンとガラスが割れるような
音がした。






あの姉妹は！？

A達は無事なんだろうか？






心臓が飛び出しそうなほど大きく鼓動を
打ち始め、足が震え、立っているのがや
っとだった。






・

月夜の罪 ki→←あの日の真実 ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す