罪で結ぶ絆 4

小さな迷い ページ16

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父の優しい声を聞いた途端、ホッとして
涙が零れ……

身体の力が抜けてヘナヘナとその場に座
り込んでしまった。



“お父さんっ、早く帰って来て！”

“ A、落ち着いて。どうしたんだ？”

“火事なの！廊下も煙でいっぱいで、リ
ビングから変な声がしたの、怖いよぉ”

“お母さんは？”

“分からない”


少しの沈黙の後、父の冷静な声が聞こえ
てきた。


“わかった、すぐ帰るから。Aはヒ
ヨリと一緒に今すぐに外に出るんだ。外
に出たら消防署に電話して。１１９番だ
よ、わかった？

“うん……わかった……”



私に出来るだろうか？声が震える。



“A”

“はい……”

“おまえは強い子だ。ヒヨリを頼んだよ”

“うん”




そんな私の気持ちに気づいたのか、それ
は諭すようなとても優しい声だった。
父の優しい笑顔が浮かび、急に心細くな
る。



と、――その時だった。

電話を切ると同時に、リビングからガラ
スの割れるような大きい音が聞こえた。


え……お母さんっ……！？

どうしようっ、


お父さんは、今すぐヒヨリと外に出ろっ
て言ったけれど、お母さんは！？お母さ
んはどうなっちゃうの？


リビングにいるかもしれないのに！




助けなくちゃ……

お母さんが死んじゃうなんて絶対に嫌だ。



まだ子供だった私の心に、小さな迷いが
生じた。



今すぐヒヨリと外に出て、消防署に電話
をかけなければならないのに、パニック
状態の私は、母の事で頭がいっぱいにな
っていた。






ガラスの割れる大きな音で、ようやくヒ
ヨリが起きたらしい。目を擦りながら私
のところにやって来た。



“お姉ちゃん、何の音？変な匂いする”


私はチェストからハンドタオルを出して
妹に渡した。


“すぐ戻ってくるから、これでお口とお
鼻を押さえててね”

“なんで？”

“んー、変な匂いするでしょ？ちょっと
見てくるだけ”



火事なんて言ったら、一緒に行くと言う
に違いないと思った。



“どこに行くの？”

“キッチン。すぐ戻るから”

“ママは？”

“大丈夫だよ、ちょっとだけだから”


ヒヨリは大きい眸で私を見ると、こくり
と小さく頷いた。





廊下に出ると、さっきよりも更に煙が多
い気がする。

学校の避難訓練で、火事の時には身体を
低くして避難すると教わっていたから

私はタオルを口元に当て、手探りで低く
屈みながら進むと、リビングのドアをそ
っと開けた。






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