罪で結ぶ絆 4

罪悪感 ページ11

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「響さんっ、お願い離して！」




黒川さんは私を一瞥したけれど、私の腕
を掴んだまま。エレベーターの扉が開く
と何も言わずに引っ張り込まれた。

私達の他には誰もいないエレベーターの
中で、階数表示を凝視している黒川さん
の横顔を盗み見たけれど、表情からは何
も読み取ることができなかった。

部屋に行きたくない……行ってしまえば
今日は家に帰れないと思った。

私を寂しそうに見つめていた、あの子の
顔が脳裏に浮かぶ。

そして何故か、ひろの哀しそうな顔がそ
れに重なり、心臓がぎゅっと締め付けら
れるように痛んだ。




黙ったまま、気まずい時間だけが過ぎて
行く。

すると途中でエレベーターがとまり、賑
やかに談笑しながら７、８人の男女のグ
ループが乗り込んできた。


「すみません」

「あ、いえ……」


ドッ、ドッ、ドッと、早くなる鼓動。
今しかない――……と、思った。


黒川さんが奥に入って手が離れた一瞬、
扉が閉まる寸前に、彼らを掻き分けるよ
うにして私はエレベーターから降りてい
た。






「おい！玲っ！」


後ろから、黒川さんの声が聞こえたが、
ドアは静かに目の前で閉まった。


早く来てっ！
どうか、どうか乗っていませんように！

一心不乱に下りのエレベーターのボタン
を連打すると、幸い直ぐに扉は開いた。

良かった。黒川さんは乗っていない！

まるで身体全体が心臓になったみたいだ
った。ドクンドクンと、大きく脈を打つ
心臓。思わず胸を押さえて、私はエレベ
ーターに乗り込んだ。






ロビーフロアに着くなり足早に歩き、何
度も後ろを振り返る。今にも腕を掴まれ
そうで怖かった。

やっと落ち着いたのは、大通りでタクシ
ーを拾った時だ。タクシーが走り出し、
私はシートに凭れると、大きく深呼吸を
繰り返した。



どうしよう、逃げて来ちゃった……

もっとドライな人だと思っていたけれど
意外と嫉妬深いのかもしれない……

何も関係のない、黒川さんまで巻き込ん
でしまった事への罪悪感を感じていない
わけではなかったが、もう全てを終わり
にしたかったんだ。

黒川さん――……利用してごめんなさい。

彼に、本当の私を知られる心配は無いは
ずだった。職場も住所も虚偽だったし、
名前も――……私の源氏名だから。





“玉を、そこにやってもいいんだぞって
脅すと……ミツどうすると思う？”




けれど、黒川さんの言葉が頭から離れな
かった。

彼が言っていた事は本当なのだろうか？






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