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龍雲 ki ページ47








かける言葉が見つからなかった……。
胸がぎゅーっと掴まれたように痛む。

どういう理由であれ、金を渡そうとした
自分を呪いたい。



俺を見つめるその澄んだ双眸は、涙を張
って淡く潤み、まるで哀しみに支配され
る二つの高潔な生き物のように見えた。

彼女にこんな顔をさせて、いったい何が
したいのか……?

頭がおかしくなりそうだった。




「……わかってる……黒川さんと、つき
あうのか?」


喉がカラカラで、声が喉に張り付き上手
く出てこない。


「あなたには関係ないでしょ」

「……」





「さよなら……」






*





Aが帰ってから、俺はその場に座り
込み、ぼんやりと空を見つめた。

陽光が差し込む穏やかな冬の朝だった。


玲さんが、Aだったなんて……


故郷を想い目を閉じると、俺の脳裏に最
初に浮かぶのは、いつもあの深いブナの
森だった。

微かに冷たさを含んだ、湿潤な風と深緑
の香り……夏には山肌は青く深く、秋に
なれば山頂に張り付くような高い空が広
がる。



そう、あれは……

西の空が茜色に染まり、光線が伸びて蓮
華岳の上に後光が現れた夏の日だったな。

山頂には天に昇る"龍"のような雲が現れ
涼しい風が吹き抜けた。


“みっくん、あの雲、龍みたい!”

“ほんとだ!”


Aのお父さんが俺の頭を撫でながら
あれは龍雲っていって、幸運の前触れな
んだよって教えてくれたっけ。でかくて
温かい手だった……


“あれを見ると幸せになれるんだよ”

“かっこいい雲だね!”


おじさんの優しい声と、キラキラとした
Aの眸。眩しくて、何となく照れ臭
くて、その真っ直ぐな眸を見つめ返す事
ができなかった。







はは、こんな時になぜ思い出したんだろ
俺みたいな奴には幸運なんて訪れるはず
はないってのに。

何だよ、俺泣いてんのか?

いつの間にか流れていた、頬を伝う涙を
ゴシゴシと手の甲で拭った。




愛していた。
こんなにも愛していたのに……




Aのいないこれから

どろりと濁ったオイルがゆっくりと流れ
ていくように、過ぎていく長い時間を俺
は、一人で生きていくことができるだろ
うか?

一度手にした温もりを手放すことは、想
像以上に辛いことなのかもしれない。







けれど俺にはやる事ができた。

スマホを見つめ、服の上からネックレス
を握りしめる。




『もしもし』

「俺です、大事な話があるんです」



どうしても、はっきりさせておきたい事
があった。





対峙 ki→←胸に刺さる矢 ki



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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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裕太 - このみこ (2021年2月25日 9時) (レス) id: 25b3f023e7 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、こんにちは。こんなダークな話まで読んでくださり嬉しすぎます。これからミツの過去も分かってきますので楽しんでいただけると幸いです! (2020年6月28日 11時) (レス) id: 05c0397959 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - こんばんは。こちらも読ませて頂いてます。別世界過ぎて主人公を自分に置き換えて読むのは難しいですが、玉ちゃんが好きだと思ってたので、黒川さんだとわかり、面白い展開にゾクゾクしてます。キスマイとか関係なく凄く楽しく小説を読ませてもらってます。 (2020年6月27日 22時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ミーさん» ミーさぁん(o^-^)ほんと、悲しい展開で……(T‐T)分かります、そこ!嫌な予感しかなかったですよね、わーん!ごめんなさいっ!そして迷いながらも読み続けてくださり嬉しいです。早く沼から出られるように更新していきますので、お付き合い下さると嬉しいです!(>_<。) (2019年2月24日 17時) (レス) id: 3e6044568e (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - きたみなさん» きたみなさん、こんにちは(o^-^)このようなダークな話にも関わらず、そんな風に言ってくださってとても嬉しいです!これからも心情と情景の描写を丁寧に書いていきたいと思いますので、上手くはありませんが、楽しんで頂けるように頑張りますね!(´>///<`) (2019年2月24日 17時) (レス) id: 3e6044568e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2018年12月11日 12時

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