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胸に刺さる矢 ki ページ46









「こんなに……」


目を見開いて通帳を凝視しているA。
唇が微かに震えていた。

通帳には、800万ほどの金が入ってい
た。母親が死んでからは一人暮らしだっ
たから、生活を切り詰めては貯めていた
んだ。俺は物欲もなかったし、自分だけ
ならいくらでも我慢できた。

会員は皆金持ちで、満足させられれば高
いチップをくれたから、ここ数年は金を
貯めるために、特にボーイズクラブの仕
亊ばかりやっていたように思う。




「ひろ、お金なんて望んでない」



戸惑いを隠せない様子のA。通帳を
閉じて、俺に返そうとする手を掴んだ。



「金で済ませるなんて思ってないから。
だけど、他にどう償えばいいかわからな
いんだ」

「どうして?」

「……」

「ヒヨリと何があったの?まだ高校生だ
ったの……酷いよっ……あの子のことを
少しでも愛していた?」

「それは、――……ごめんとしか、言え
ない……」



もちろん好きだったけれど、妹としてで
あり、俺にはそれしか言いようがなかっ
たんだ。

憔悴しきったような表情で、俺をじっと
見つめる彼女を前に、只、謝ることしか
出来なかった。



「あの子、ひろの背中の十字架も心の傷
も消えますようにって……苦しい、助け
て……って!それが最期の言葉よ。紙に
書いてあったのを見つけたの。ルキアの
コースターと一緒にゴミ箱に捨ててあっ
たのよ」

「ヒヨリが……?」



ヒヨリが俺のことを……?


だからか……誤解されても仕方がないの
かもしれない。心臓を鷲掴みされたよう
に苦しくなる。

彼女には以前、自分の境遇を話したこと
があった。

安曇野の話はしていないけれど、こんな
俺でも何とか生きてるって言いたくて、
元気づけるつもりで話した。




「どうして、バーなんかに……」


Aは、自分に問うようにぽつりと呟
いた。ヒヨリがウリをやっていたなんて
言えるはずがなかった。

まして、姉の足枷になりたくなくてなん
て……言えるわけねぇわ……



「知らない。来たんだよ……ある日ふら
っとさ……」

「そして、仲良くなったのね」

「ああ……」







「――でいて」

「え……?」





それは、今にも消え入りそうなそうな声
だった。

俺を見つめる眸が切なげに揺れ、下を向
いてしまった彼女の表情は見えない。





「……ずっと不幸で……いて……」

「……え」






「一生、自分を責め続けながら生きて。
それが私の願いよ」




彼女は再び顔を上げた。






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設定タグ:北山宏光 , 玉森裕太 , Kis-My-Ft2   
作品ジャンル:恋愛
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裕太 - このみこ (2021年2月25日 9時) (レス) id: 25b3f023e7 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - にかみつばさん» にかみつばさん、こんにちは。こんなダークな話まで読んでくださり嬉しすぎます。これからミツの過去も分かってきますので楽しんでいただけると幸いです! (2020年6月28日 11時) (レス) id: 05c0397959 (このIDを非表示/違反報告)
にかみつば(プロフ) - こんばんは。こちらも読ませて頂いてます。別世界過ぎて主人公を自分に置き換えて読むのは難しいですが、玉ちゃんが好きだと思ってたので、黒川さんだとわかり、面白い展開にゾクゾクしてます。キスマイとか関係なく凄く楽しく小説を読ませてもらってます。 (2020年6月27日 22時) (レス) id: 74d56dba5b (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - ミーさん» ミーさぁん(o^-^)ほんと、悲しい展開で……(T‐T)分かります、そこ!嫌な予感しかなかったですよね、わーん!ごめんなさいっ!そして迷いながらも読み続けてくださり嬉しいです。早く沼から出られるように更新していきますので、お付き合い下さると嬉しいです!(>_<。) (2019年2月24日 17時) (レス) id: 3e6044568e (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - きたみなさん» きたみなさん、こんにちは(o^-^)このようなダークな話にも関わらず、そんな風に言ってくださってとても嬉しいです!これからも心情と情景の描写を丁寧に書いていきたいと思いますので、上手くはありませんが、楽しんで頂けるように頑張りますね!(´>///<`) (2019年2月24日 17時) (レス) id: 3e6044568e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:siori | 作成日時:2018年12月11日 12時

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