ヒグラシの夕暮れ ページ21
．
「本当にいろいろありがとね」
「……うん」
「また明日……」
「うん、おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
ミツの唇がしっとりと重なり、ちゅぽ
んと音を立てて離れていった。
「ミツ」
「ん？」
「もっとキスして」
ちゅっ
啄むようなキスが、いつの間にか舌を
絡めあう深いものに変わった。ミツの唇
が私の首筋を這い始める。
「Aっ、これ以上してるとおまえのこ
と欲しくなるから…」
ミツは辛そうに私から離れ、玄関まで
送ってくれた。
＊ ＊ ＊
次の日の夕方、フキちゃんのお父さん
が迎えに来たのは１８時を過ぎた頃だっ
た。
マンションの外まで送りに出た私たち。
”ありがとう”
「フキちゃん、元気でね」
私は、細い身体を抱きしめた。
彼女は車に乗るとき、ほんの少し顔を
歪めたけれど、最後まで笑顔で、一度も
私たちを振り返らなかった。
きっと振り返ったら泣いちゃうと思っ
たのかもしれない。
「フキちゃん、やっていけるかな……
ねぇっ、大丈夫かな？」
「A……」
「私……フキちゃんの笑顔を守りたい。
もう悲しい顔見たくないよ」
「大丈夫だよ、俺がフキを守るから」
「……うん」
「あ、訂正。俺が、フキとAの笑顔を
守りますっ」
「あっ、今、めっちゃくせーこと言っ
ちゃった！？」去って行く車を見送りな
がら、恥ずかしそうに笑うミツ。
「泣いていいよ……」
そう言い、優しく、私の肩を抱き寄せ
てくれた。
カナカナカナ
夏の夕暮れ。いくつかの蝉の鳴き声に
混じり、遠くでヒグラシの物悲しい鳴き
声が聞こえる。
心を震わせるその澄んだ声は、夕暮れ
の色に溶け込み、美しかった。
ヒグラシが郷愁を連れてきたのだろうか？
ふわりと風が吹きぬけた。
私がまだ小学生の頃、夏休みになると
弟と山によく蝉を取りに行った。
ツクツクボウシとヒグラシはなかなか
見つからなくて、アブラゼミばかりだっ
た籠の中。
やっと見つけたヒグラシを、弟が捕り
たいって泣いた。だけど、私が譲らなく
て、結局ヒグラシは逃げて行った。
泣きわめく弟を、おぶって帰ったあの
山道。
鼻水でぐしょぐしょの弟を見てお母さ
んは目を丸くしてたっけ……
フキちゃん、またね……
カナカナカナ……
ヒグラシは、夏の終わりを惜しむように
いつまでもいつまでも鳴いていた。
．
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siori(プロフ) - Mielさん» Mielさーん、こんにちは！そうですね、今ちょうど辛いんですっ(T_T)フキちゃんほんと可愛いですよね、私の癒しです！移行しましたので、どうぞ♪ (2017年10月1日 15時) (
レス) id: a482fb1278 (このIDを非表示/違反報告)
Miel(プロフ) - sioriさんこんにちは。やっと読めました。最後のほうはちょっとツラくて泣きました。フキちゃん可愛いな。いろんなこと考えてるんだなって…。みんなが幸せになれるといいな…。続きも楽しみにしています。 (2017年10月1日 12時) (レス) id: 5ce7b7cc41 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - みっくん大好きえみこさん» 今ちょうど見てて(笑)私もできれば優しくしたかったので、おっしゃってくださり助かりましたぁ！えみこさんありがとうございますっ(^▽^;)ミツに浮気させちゃってごめんなさいっ(;^ω^)いつも辛い話を最後までありがとうございます！頑張りますね！ (2017年9月29日 19時) (レス) id: 031c2bcb7e (このIDを非表示/違反報告)
みっくん大好きえみこ(プロフ) - sioriさん、今 読みました。ミツの電話、少し優しくしてくれたんですね、ありがとうございます。少し気持ちが救われました。でも、なんか…申し訳なかったですね(^^; (2017年9月29日 19時) (レス) id: d81176af93 (このIDを非表示/違反報告)
siori(プロフ) - みんさん» みんさーん、ありがたいことですぅ〜！楽しみにしてくださってとてもうれしい！拙いながらも頑張らせていただきますね！(*´▽｀*) (2017年9月29日 18時) (レス) id: 031c2bcb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：siori
| 作成日時：2017年9月6日 14時
