ＪＥＷＥＬ ３

偶然 ページ10

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「でも高いよ……それに今日はっ、

「気に入ったんだろ？」



　太輔は私の言葉を遮ると、それを持っ
てレジに行きあっという間に買ってしま
った。


「ほら、付けてやる」

「太輔、ありがとう……」

「Aの髪、柔らかくて細いし量も少な
　いからまとまりやすいんだな」

「そうかな？」

「良く似合ってるよ。ほら」


　太輔から渡された手鏡で合わせ鏡にす
ると、バレッタを付けた私の後ろ姿がよ
く見えた。


「可愛い！」

「はは、良かった。ほら手」

「えっ？」

「行くよ」




　太輔に手を取られ、ショップから出よ
うとした時だった、スパ〇ラルに入って
くる男女に目がとまる。それは、美咲ち
ゃんと多分今の彼……。

　背が高くがっしりとした体格で、いか
にも真面目そうな、眼鏡をかけている男
性だった。


　小柄で可愛い感じの北山さんとは正反
対の男の人……。


　その男性はしきりに美咲ちゃんに話し
かけ、時々頷いている美咲ちゃん。




”社内ではエリートって言われてるけど
　冷たい感じがして面白味がない人なの
　どこがいいのか……私は全然魅力感じ
　ないなぁ”



茉莉ちゃんの言葉が頭をよぎる。



　北山さんといる時の美咲ちゃんは楽し
そうで、花のように笑ってたじゃない。

　好きな人にプロポーズされたのなら、
今は幸せの絶頂のはずだよね？

　美咲ちゃん……全然楽しそうじゃない
よ？その人といて本当に幸せなの？


そう思わずにはいられなかった……




　その時、美咲ちゃんは私と太輔に気づ
いたようだ。一瞬驚いた顔をして、次に
笑顔になると、ゆっくりと私たちのとこ
ろに近づいてきた。

　そして、私と太輔の繋がれた手に視線
が移る。



「Aさん、こんにちは」

「こんにちは」

「こんなところで会うなんてびっくりし
　ちゃった！昨日は先に帰ってごめんね」

「……ううん」



「彼氏？」

「え……と」

「手を繋いでるってことは彼氏なんでし
　ょ？」



　美咲ちゃんは私と太輔を交互に見て聞
いてきた。何となく棘のある言い方だ。


「違いますよ、元同僚です」

「――そうなんですか……？」

「俺たち急いでて、こいつが遅いから手
　を引っ張ってただけですから」


　
　私が答える前に太輔が答え、爽やかに
ニコッと笑うと私の手を離した。



「行こうか」

「うん。美咲ちゃん、またね」



「うん……またね」



　この時、私は美咲ちゃんの視線を、背
中に痛いほど感じていた。






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