ＪＥＷＥＬ ３

ちり菊のように ページ41

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「近所の公園でやるか？」

「いいの？」

「夏になると、家族連れがよくやってる
　し、別に騒がねーから平気だろ？」


　コンビニで売っている花火は、ファミ
リーで楽しめる簡単な物。



「俺、線香花火好きなんだよねー」

「私も大好き！」


北山さんはそれをレジに持って行った。







＊







昼間の喧騒はどこへやら……

　夜の公園は人影がなく、無個性な外灯
の光が公園の木々や、遊具を照らし出し
ている。

　風のせいなのか、誰も乗っていないブ
ランコが、歯ぎしりのような軋り音を立
てていた。


　北山さんが家に帰り、小さいバケツを
持ってきてくれた。





「フキ、好きな花火を持って来いよ」



　蝋燭に火を灯し、フキちゃんが花火に
火を着けると、シューっという音を立て
黄金色の火花が勢いよく噴き出した。


　それはまるで黄金色のススキのようで
やがて黄金色から緋色へと変化した。


「綺麗！」


　フキちゃんの顔が花火に照らされ、瞳
がキラキラと揺らめいて見える。





「花火するのなんて、何年ぶりだろう」

「だよなぁ」


　火花が飛び出すスパークタイプの物や
くるくる回るタイプの物。どれも幼い頃
の想い出の中から抜け出してきたみたい。





――郷愁を誘い

火花を散らし、儚く消える花火は

懐かしい夏の香りがした。








「おっし、シメに線香花火やろうぜ」


　シメって……(笑) 北山さんが、いた
ずらっ子のような顔で線香花火を差し出
してくる。


「誰が一番長もちするかやらない？」


　私が言うと、フキちゃんはうれしそう
に飛び跳ねた。



「じゃあ、点火〜」


　橙色の丸い玉と小さい火花は、すぐに
”松葉”を散らしたように飛びちり始め

　やがて火花が垂れるように下に伸びる。
その姿は、舞うように風に身をまかせる
”柳”のようだった。

　最後は"ちり菊"。菊の花びらが咲いて
は散り、咲いては散りを繰り返し、線香
花火の終焉が近づく。

　ここから長くもつかが勝負。最後の力
を振り絞るように瞬き……




「くそっ」

「あっ、北山さんの落ちそう！」




　まるで夕日が落下するように、丸い玉
がぽとりと落ちた。







「フキ、今日は楽しかっただろ？」

「北山さんも先生と楽しそうだったね」

「まだ言うんかーい」

「チャラ男〜！」






　公園からの帰り道、目尻に小さい皺を
寄せ



「ごめんね」



私の耳元に唇を寄せて囁くと……

頬に、そっと彼の唇が触れた。






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