ＪＥＷＥＬ ３

平行線　ki ページ25

・








　思いがけない彼女の言葉に、動揺しな
いわけではなかった。



　別れてからも美咲が俺に会いに来て、
仕事の悩みなんかを聞いているうちに良
い雰囲気になり、行為に及んだこともあ
った。


　別れたのに、ずるずるとそんな関係を
続けていいわけはないけれど、それでも
いいと思うほど彼女しか見えていなかっ
た。


　いつまでも俺の店や家に来る美咲がい
ったいどういうつもりなのか、理解でき
なくてモヤモヤする毎日。


そのうちに彼女は前田とつきあいだし…


　だけど俺は、まだ美咲は俺のことをど
こかで好きでいてくれるんじゃないかっ
ていう惨めな考えを捨てられず……


　見るに見かねたよこーさんに、美咲は
もうやめとけって何度も説教されたけれ
ど、どうしても未練を断ち切ることがで
きなかった。


　美咲と寝た翌日は、必ず他の女を連れ
込んだ。




だけど今は――？


　Aちゃんのことが気になりだして以
来、以前のように女を抱き捨てようとも
思わなくなり、美咲のことを考える時間
も減っていることに気づく。





「前田にプロポーズされたんでしょ？」

「……うん」

「将来有望なエリートじゃん」

「……」




「前に散々話しあったよな？美咲は結婚
　願望があんだろ？情けねぇーけど、今
　の俺には美咲が望むような生活をさせ
　てやれねーの」


「……」




「それとも前田と別れて俺のところに戻
　ってきてくれんの？店はあんなに汚ね
　ぇーホルモン屋だぜ？それにフキだっ
　て……、

「戻るよっ！」



「――美咲……、本当はそんなこと思っ
　てねぇだろ？噛み合わねーんだよ俺た
　ち……いつまでたっても平行線なの」





「そんなことないっ、宏くんが好き……」





　みるみるうちに美咲の目から涙が溢れ
俺に抱き着いてキスしようとしてくる。





「おぃ、ダメだって」

「やだっ」





「もう、こういうのやめよう。お互いに
　傷つくだけだよ」




美咲の肩を掴んで押し戻した。





「わかった……前田くんと別れる」



「えっ？」






「そうしたら、もう一度私とやり直して
　くれる？」




「美咲……」





　俺に縋るように抱き着いてくる美咲を
驚いて見つめた。







・

芽生えた感情　ki→←戸惑い　ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す