ＪＥＷＥＬ ３

涼月 ページ15

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うーんとっても美味しかった！

　ちょっと物足りなかったのは、モクモ
クと上がる煙の匂いがなかったからかも
しれない。

　やっぱり私には汚いオヤジ酒場が合う
みたいだ。






「誕生日なのに悪いよっ、私も払う！」

「えっ、いいって」

「ダメだよっ、お願い受け取って！」

「マジでいいからっ」



　店の出口でお札の押し付け合いをする
おばちゃんのような私たち。

　さすがに恥ずかしくなったのか、太輔
がしつこくお札を差し出す私から逃げる
ように走り出した。

　えっ！？うそでしょ？ダッシュする太
輔に全然追いつかない。ううぅ、女の子
みたいな走り方だけどさすが男だ、速い
に決まってる。

　ぴゅーぅと走り、角を曲がっていなく
なってしまった。



うそ……



　私、置いて行かれたの？辺りを見回し
たけれどどこにもいない。

　すると背後からいきなり背中を押され
振り返ると、いたずらっ子みたいに笑う
おちゃめな太輔が立っていた。



「太輔っ！」

「ごめん、びっくりした？本当にお金は
　いらないから」

「いいの？……なんかごめんね……ご馳
　走様でした」

「楽しかったな」

「うん！」



「ほら、月が出てる」



　いつの間にか空は澄み、蒸し暑い夏の
夜空に、涼し気なプラチナが浮かんでい
る。



「送って行くよ」

「大丈夫だよ」

「俺が送りたいんだよ」



太輔に手を取られ、駅に向かった。









＊








「今日はありがとう、おやすみ」

「おやすみ……」



　視線が交わるその瞬間、太輔に腕を引
かれて抱きしめられた。






「俺に……しろよ」




「太輔…っ」






　その時、突然隣の部屋のドアが開き北
山さんが出てきた。コンビニに行くつも
りなんだろう、財布を持ったまま私たち
を見て驚いた顔になる。

　一度開けたドアをまた閉めるわけにも
いかないようで



「こんばんは」


　俯き加減で私たちにひと声かけると、
太輔に軽く会釈して足早に去っていった。






「――ごめん……」

「……ううん」



　バツの悪そうな太輔を見送り部屋に戻
った。




　フキちゃんと三人で会えないかって誘
われたのに断って、彼じゃないって言い
わけした男の人と抱き合っていた私をど
う思った……？


　休日はいつもなら、１２時前にはベラ
ンダに出てくる北山さん。




北山さーん、今日は月が綺麗ですよ〜





――だけどこの夜



　北山さんが、ベランダに出てくること
はなかったんだ。







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