ＪＥＷＥＬ ３

本心 ページ13

・








　ふと空を見上げると、さっきまで雨を
降らせていた薄墨色の雲が、風にのり散
って行くところだった。

　こうして見ている間にも、薄墨色の塊
はどんどん崩れ薄れて風に流されて行く。

　その流れる雲は常に形を変え、まるで
空と溶けあうように流れ、同じ表情は二
度と見せない……。



どのくらいの時が過ぎたのか……


　そんな移ろいゆく空をただ見ているう
ちに、こんな私を好きと言ってくれた太
輔に、私も正直な気持ちを言うべきだと
そう思った。




　




「太輔」

「ん？」


「太輔の気持ち…、すごくうれしいけど
　……私っ、私ね……」

「うん」


「もう気づいていると思うけど……私っ
　北山さんのことがすごく気になるの。
　彼が……私のことなんて何とも思って
　ないのはわかってる、だけど私は……
　北山さんのことが多分好きなんだと思
　う……」


太輔の顔を見れなくて、私は下を向いた。


「うん、わかってるよ。やっと自分の気
　持ち言えたんじゃない？」

「太輔……」





「好きでいてもいいか？」


「え？」




　顔を上げると、まるで今日の空のよう
な、憂いを帯びた切れ長の目に見つめら
れ――心臓が一つ音を立てる。





「でもっ、

「Aのこと諦められない……俺のこと
　今はどう思ってる？」




太輔のこと……？



元同僚でありいい友達。

だけど、ただの友達じゃない

　きっと、太輔を男として見ることはで
きる。ううん、今までだっていつも男と
して見てきた。

　頼りたい時もあった。抱きしめてほし
いなんて思ったことも正直……ある。

　だけど強がりな自分が邪魔をして、頼
ることができなかったんだ。



　今？……そう、今は、自分の中で北山
さんへの気持ちが膨らんで……

今にも割れそうな風船みたい。




「A……正直に言えよ」


切れ長の揺れる双眸。



「太輔のこと……好きだよ。男の人とし
　ても魅力的だと思うし、好きだって言
　ってくれて……びっくりしたけど、う
　れしかったし……気持ち揺れた……。
　だけど、どうしても北山さんが好きな
　の……ごめんね太輔……」


「タイミング悪いな俺。もっと早く気持
　ち伝えてたら、俺たちうまくいってた
かな？」



太輔は、私を見つめてフッと笑った。





それはわからない。

　今のままの関係が心地良すぎて、もし
つきあっても、うまくいかなかったかも
しれない。







・

懐石料理？→←雨あがり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す