ＪＥＷＥＬ ３

痛む胸 ページ1

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自分から手放した？




「じゃあ、美咲ちゃんが……？」

「そうだよ、美咲がミツをふったんだ」





「……」



　横尾さんは全く理解不能だと言わんば
かりに眉を寄せた。





　それから横尾さんは北山さんのことを
私に教えてくれた。

　北山さんはビール会社の優秀な営業マ
ンで、人当たりもいいし、すーっと他人
の懐に入っていけるから、酒販店営業マ
ンや飲食店のオーナーなんかともすぐに
仲良くなり、よく店舗経営に関する様々
な相談事にものったりして、その信頼も
厚かったようだ。


横尾さんはさらに続けた。


「それに面倒見もいいから、後輩からも
　慕われていたし、やめて家業を継ぐっ
　てっ聞いたときは泣き出す子もいたん
　だ……本人も、仕事はきついけど、や
　りがいがあって楽しいって言っていた
　から、俺もあいつが辞めるって言いだ
　したときはびっくりしたよ」



　北山さんの下に新卒で配属になったの
が美咲ちゃんで、女性の営業職だったか
ら色々大変なこともあったけれど、よく
フォローしてあげて仕事を教えてきたの
も北山さんだったらしい。




　二人の間に恋愛感情が芽生えるのに時
間はかからなかったんだろう……。







「海外転勤が決まってたのに、急に辞職
　したよね……」

「そうだったな」


　
　海外で働く場合にはマネジメント側で
出向という形になり、海外での営業は現
地社員がやるとのこのこと。もちろん国
内で結果をだせたからこその栄転だった
んだろう。



「美咲と結婚して連れて行くつもりだっ
　たんだと思う……美咲、ついてきてほ
　しいって言われたって泣くほど喜んで
　いたから……」



　茉莉ちゃんはそう言うと、当時を思い
出すように目を細めた。

　茉莉ちゃんは北山さんと横尾さんの３
期下の後輩らしく、美咲ちゃんの一つ先
輩。同じ職場で、当時の事情も色々知っ
ている様子だった。



　そうだったんだ……結婚も考えていた
ほどお互いに好き同士だったんだ。

２人に何があったのかはわからない。


――だけど。


きっとまだ……

胸がまたズキンと痛んだ。




「だから、お父さんが亡くなって店を継
　ぐって言ったとき、みんな止めたんだ
　よ。だけど俺は、今でも家業を継ぐた
　めに辞めたとは思えないんだよね……
　まぁ今更の話だけどさ……それに今は
　すっかりホルモン屋の熱い兄ちゃんが
　板に付いてるし」







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